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May 14, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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SunsteinのRegulatory Czar承認、佳境へ

May 14, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

オバマのホワイトハウスのアドバイザーとして、Cass Sunsteinの任命承認作業が上院で進行中であることを伝える記事。

Businesses Encouraged by Regulatory Nominee
【Wall Street Journal:May 13, 2009 】

Sunsteinの役職名は、ホワイトハウスで政府予算の策定を行うOMB(Office of Management of Budget)の中にあるOIRA(Office of Information and Regulatory Affairs)のAdministrator。

OIRA(オー・アイ・ラーというようだ)は、もともとは1980年に政府文書の削減(による業務の効率化とそれに伴う予算の削減)を目的に連邦議会によって作成されたセクション。実際には、経済学でいう“Cost-Benefit Analysis(費用・便益分析)”に従って、ある政策や施策に対する予算の妥当性を判断する作業を行っているという。

Cost-Benefit Analysisは、もともとは企業における投資とリターンの比較判断に準じて、ある政策に対して、実行上必要な費用と、そこから得られる便益を比較して、便益が上回るようなら実施、という判断を行うもの。70年代までの福祉国家路線で政府の予算規模が際限なく膨れあがる傾向にある一方で、オイルショック以後先進諸国が低成長経済に移行し、税収の増加が見込めなくなってきたため、財政均衡を図る必要から、政府機関で広く利用されるようになった。今では、アメリカの公共政策・経営系の教育プログラムではほぼ必修に近い位置づけだと思う。

Cost-Benefit Analysisには計量化に伴う基本的な問題点が伴うと思ってよい。つまり、比較考量する、費用、便益、をそれぞれどのように測定し、それを将来の影響としてどのように予測するか。だから、対象となる政策プログラムについての知識・見識のストックがどれだけあるかで、数字の作り方が変わる。容易に想像可能だが、経験値が多ければこうした数字は妥当性を帯びるし、経験値がない、端的にいえば、今まで試みなかったプログラムにおいては、こうした数字は大きくぶれることになる。

そのため、既にあるプログラムの予算規模の妥当性を図るためには有益かもしれないが、新しいプログラムについては、そのプログラムに肯定的か否定的かという事前のポジションによってその有効性も変わりうる(ベスト・ケース・シナリオとワースト・ケースト・シナリオへの分岐)。おしなべて、新しいプログラムの導入を希望するAdvocacy Groups(そしてこれはデモクラットに多い)からすると、「やってみなければわからない」ことを数字によって判断しようとする、Cost-Benefit Analysis、ならびにそれを基本的な方法論として採用するOIRAは、目の上のたんこぶ的な、厄介な存在であったようだ(特にブッシュ時代)。

上の記事によれば、Sunstein自身は、Cost-Benefit Analysisに賛成の立場を取っているため、こうしたデモクラットの左を形成するようなAdvocacy Groupsからすると、SunsteinがたかもGOPのメンバーのように見えるらしい。ただ、これは、上でも触れたとおり、Cost-Benefit Analysisが標準手続き化した今のアメリカでは、的を外した非難だろう。Sunstein自身、この手法の問題点は心得ていて、計量化できない「ソフト・ファクター」にも配慮するつもりと述べている。

このあたりを感覚的に理解するには、たとえば、10年前の日本では、キャッシュ・フロー経営、という言葉を新奇なものに感じていたが、四半期決算が当たり前になった2009年現在の日本では、上場企業の経営部門の人たちであれば必須の知識になっていることに近いと思う。

Sunsteinについては、Libertarian Paternalismの提唱者として紹介したことがあるが、上で記したCost-Benefit Analysisのように、実際に計量化されたものをたたき台にしながら、実効性のある方法論を考えていこう、というタイプの人物なのだろう。その意味では、プラグマティック、という形容が的を得ているのだと思う

*

ところで、実は、最初、上の記事を見かけたときは、承認完了を伝える記事と思っていたのだが、よく読むと違った。そうすると、まだ承認の途上にあることが伝えられること自体には、ある種のコミュニケーション(広報)上の狙いを感じてしまう。

大統領就任後100日を過ぎた時点でのオバマ政権に対しては、金融危機への対処や、外交方針の転換(ユニラテラリズムからの転換)などは迅速に方針を示したと評価された一方、環境・エネルギー、医療保険、などの、全米上げての包括的なプログラムについては、“bold(毅然とした)”な態度で取り組み姿勢を示したが、政策の練り上げとそのための予算化作業については、次の100日間が課題だ、という指摘が見られた。

そう考えると、今まさに、ヘルスケアや環境に関するひな形となる政策・法案・予算案を作ろうとしているときに、Sunsteinのポジションは重要になる。Cost-Benefit Analysis重視で、姿勢としてはGOPと見紛う財政重視という点では、デモクラットの中でも中道を求める議員(とその支援者、有権者)に対してアピールするし、その一方で、「ソフト・ファクター」にも配慮するというメッセージは、よりリベラルな、デモクラットの左よりの人々にも訴えることになる。そうした、Sunsteinの承認を通じて、環境や医療保険についての、デモクラット内のコンセンサス、もしくは妥協の所在を探ろうとする意図が、今回の記事にはあるようにみえる。

いずれにしても、Sunsteinの動き方には注目し続けたい。

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