FERMAT communications visionary

July 09, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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伝家の宝刀はまだ抜くわけにはいかない。

July 09, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

といっても、ホワイトハウスのヘルスケア政策に関するコミュニケーション展開についての話。

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イタリアでのG8サミットにオバマ大統領が出席しているタイミングで、副大統領のバイデンが、ヘルスケア改革に関するホワイトハウスの見解を公表した。

Biden Rolls Out Deal With Hospitals to Cut $155B in Costs
【Washington Post: July 8, 2009】

昨日のエントリーで紹介したとおり、ヘルスケア改革は数多くの利害関係者が絡み、その上、アメリカの財政の行く末にも大きな影響を与える、何かと議論の多い政策案件。首尾よく改革が実施されヘルスケア政策が導入されることになれば、間違いなく政治的偉業、政治的大事件として歴史に登録される。改革に成功した経緯の一部始終が、一冊の本として記録されるに違いない。ちょうど、レーガンの時の減税政策導入の顛末が、書籍として記録され、アメリカの政策科学(特に「政策過程」)の領域で繰り返し参照されているように。

そのヘルスケア改革だが、これも前に紹介したとおり、オバマのホワイトハウスは、クリントン時代の失敗を参考にして、はじめから連邦議会に大きな決定権限を与えてスタートした。クリントンの時のように、ホワイトハウス側がほぼ完成稿の法案=政策を用意して連邦議会に諮っても議会にはねられてしまえばそれまでだからだ。JFK以来の、前職が上院議員であるオバマ大統領は、だから、議会対策・議会運営こそが、政策遂行=公約実現の要ととらえ、議会の裁量ややる気を引き出すことを重視している(このあたり、最近のThe Economistは“Senator-in-Chief”と評している)。

とはいえ、下院は約500名、上院は100名の議員の足並みを揃えるのは簡単なことではない。アメリカには、日本のような党議拘束はなく、議員は自らのスタッフの判断と自らの支援基盤(選挙民と資金拠出者)の利害に敏感に反応して投票の意思決定を行う。

とりわけ議員経験も長く、地盤や縁故も含めて、各方面の現実的な経済利害を代弁する立場にある上院議員の場合、議員の間での合意形成は容易ではない。総論賛成だが各論反対、という場合、アメリカでは、そもそも法案が成立しない。しかも、ヘルスケア改革の場合、担当の(というか「縄張りの」というほうがより的確な表現だと思うが)Finance Committeeの議論の最中にあって、上院本会議に諮る段階にも達していないため、Committee member以外の議員は直接口を挟むことができない。

この点を憂慮して、デモクラットの上院リーダーであるHarry Reidは、ホワイトハウスの介入、もっといえばオバマ大統領の調停者としての介入を求めるようになっていた。

しかし、大統領の介入は、後日、政策の実現が暗礁に乗り上げた場合、責任のほとんどを大統領とホワイトハウススタッフに押しつけられる可能性が高くなる。それは、現在のホワイトハウスの面々からすると政治生命のリスクになってしまう。

*

オバマ大統領が上のような介入要請に対して、とった対応策は、間接介入という手段だった。

それは、第一に、オバマのヘルスケア改革に賛同する州のガバナー(州知事)たちに、ある意味オバマ・ホワイトハウスの特使として、上院議員に働きかけをしてもらうこと。ガバナーにとって、現在の最大の課題は、州政府の財政運営であり、かつ、州にとっての「経営者」としての地位にあるガバナーは、一般的にいって、その発想は、法案審議に明け暮れれば仕事をしているように見える議員という存在よりも、はるかに「現実的」な人々が多い。背に腹は代えられない、と思う人は多く、だから、仮に政治的信念では違える相手とも「妥協」を引き出すことにやぶさかでない人が多い(たとえば、カリフォルニア州知事のシュワルツネッガーなどがその典型)。もちろん、全てのガバナーがホワイトハウス原案のへルルケア改革に賛同するわけではないが、まずは、賛同してくれる人物から同一州の上院議員を中心に圧力をかけてもらう。政策過程上は有意味な行為だ。

間接介入の2番目としてあげられたのは、“Organizing for America”というグラスルーツの団体によって議会に働きかけてもらうこと。この団体は、大統領選挙キャンペーン中にオバマ支援団体として練り上げられた団体を発展させたもの。2008年の選挙が、レーガン以来のポピュリズム的熱狂によって支えられたものであったことを踏まえて、その熱狂を政権開始後も引き続き維持していこうとして改組されたもの。この団体を中心に、選挙民からの、いわば「下からの突き上げ」を関連議員に対して行うことで、間接的に議会に影響を与えようとする動き。

なお、上の二つの間接介入については、次の記事が詳しい。

Obama Steers Health Debate Out of Capital
【New York Times: June 29, 2009】

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そして、今回の、バイデンの表明、に至る。

Political communicationsの上でうまいと思うのは、オバマ自身による介入は、いわば「伝家の宝刀」として最後の最後まで残しているところ。

そして、そのことをあからさまにせずに済むように、オバマが海外に出ているタイミングで行っているところ(今週に入ってからバイデンはヘルスケアに限らす、イランやイラクなど外交政策や、オバマ政権の経済刺激策についても発言をしている。むしろ、バイデンの売り出し期間なのかもしれない)。

しかも、バイデンは、上院議員歴が長く、議会に影響力を行使できるほどの経験や人脈を持っている。また、副大統領としてピックアップされた最大の理由であったように、彼は庶民的な振る舞いから一般の有権者からの受けがいい。いずれにせよ、議会に対して一定の睨みをきかせることができる。

さらにいえば、こうしてホワイトハウスの意見を表明することで、彼自身の副大統領としての存在をアピールすることもできる。ホワイトハウスの層が厚いことも同時に知らしめることができる。

よく刑事物の映画やドラマで出てくる“Good cop, Bad cop”ではないけれども(だから、オバマとバイデンのどちらがいいとか悪いとかではなく)、パーティを組んだ二人がその役割分担をきちんと引き受けることで、コミュニケーションの効果は増す。膠着状態を打破し、事態に動きを与えることができる。

もちろん、オバマとバイデンの二人、あるいは、キャビネット・メンバーを含めて、多数のスタッフが勝手にしゃべり始めてしまい収拾がつかなくなるのはよろしくないのだが、いまのところ、「異なる意見が公に表明される」こと自体は、オバマの公約の一つである「全ての意見にまず耳を傾ける」という考えに違えるものではない。

以上見たように、ヘルスケア改革は(もちろんエネルギー関連もそうだけれど)、過去しばしば膠着状態に陥ってしまった案件であるため、コンセンサスや新たな意義を見いだすためにコミュニケーションの果たす役割は大きい。こうした点から、ヘルスケア改革の動きを見るのは興味深い。


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