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July 13, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Sun Valley Conference: メディア・タイクーンたちの避暑会合

July 13, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

先週、Idahoの避暑地であるSun Valleyに、メディア企業やネット企業のエグゼクティブが集まった。Allen & Companyという、NYにあるメディア産業に特化した投資銀行が毎年開催する、invitation-onlyの、私的な会合である、Sun Valley Media & Technology Conferenceがあったからだ。

招待されたのはAllen & Coのクライアント筋であるメディア企業、テクノロジー企業の大御所たち。Rupert Murdoch、John Malone、Barry Diller、Michael Eisner、といったメディア企業のタイクーンたちや、Bill Gates、Eric Schmidt、などのテクノロジー企業のトップ、それにWarren Buffetのような大物投資家たちが集まった。TwitterのCEOであるEvan Williamsも今年の目玉として招待された。

基本的には私的な会合で、Allen & Co.の顧客どうしが親交を深める場として設定されている。なぜAllen & Co.がそうしたホスト役を務めるかというと、次のような事情がある。

メディア企業の間ではしばしば資産の売り買いがM&Aという形で行われるが、Allen & Co. はその仲介を行うことで利益を得ている。

メディア業界は、FCCが定めるMedia Ownership Ruleの存在によって、同一資本として所有可能なメディアの種別や企業数に制限が課されている。そのルールに従うためには、一つのM&Aを遂行するにも、地域と業種を考慮した、三角トレード、四角トレードのようなスキームを考案しなければならないことばしばしばある。そのとき、関係者の間を取り持つ仲介業者としてAllen & Co.が動くことになる。もちろん、FCCのルールが緩和されれば、それに応じて売買が生じるし、会合にテクノロジー企業が招待されていることからわかるとおり、インターネットのメディア化に伴い、メディア企業の資産(たとえば傘下の事業会社や事業部門)をテクノロジー企業に売却することもある。そのスキームにBuffetのような資産家が、資金提供者として一枚かむこともある。さらにいえば、M&Aだけでなく、こうしてできたネットワークを通じて、人材のヘッドハンティングを仲介することもある。

いってしまえば、昭和の時代の日本にあった、メインバンクのようなことをしている。関係者の間のビジネスを円滑に回すために、資産の売却・購入やそのための資金調達、人材調達を行う。その役割をAllen & Co.が果たしている。

*

Conferenceは私的会合であるため、原則取材はできない。それでも、秘密会合があるところ、記者が集まるのはやむを得ないこと。だから、記者のガス抜きのために取材機会が与えられる。

NYTやWSJ、それに投資銀行が関わることなのでCNBCのようなメディアが、担当記者にブログを書かせて、会合の様子を伝えている。

避暑地で気が緩んでいたりすることもあるのだろうが、コメントを加えた案件については、エグゼクティブたちの個人的本音とともとれるような「ゆるい」コメントが得られるようだ(もちろん、ノーコメントの案件には、頑なに取材を拒否するわけだが)。

記者が個別に取材したものが、記者個人名のブログとしてアップされるだけなので、一次情報源としては少し頼りないのだが、それでも、いくつか興味深そうな出来事を拾ってみる。

*

まず、驚いたといえば一番驚いたのは、上で紹介したメディアのタイクーンたちが、ほぼみな口をそろえて、FacebookやTwitterのようなSocial Mediaには、広告的利用価値を見いだせないからビジネスとして関心がない、といっていることだ。

Sun Valley: Diller and Malone Pessimistic on Twitter
【Wall Street Journal: July 8, 2009】

TwitterのWilliamsが招待されているにもかかわらずのこの発言には苦笑せざるを得ない。

世界の広告グループ大手の一つであるWPPのトップであるSir Martin Sorrell(呼称からわかるとおりイギリス人の貴族。HBSでMBAをとって、広告業界にファイナンス視点での経営マインドを最初に導入した人物。その分、数字に厳しい)も、広告だけではSocial Mediaは支えられないと、遠回しに関心の低さを示している。

WPP's Sir Martin Sorrell on the Ad Recession
【CNBC: July 9, 2009】

こうした考えの裏返しとして、Murdochが(今更ながら!)MySpaceをentertainment portalにする計画を発表している。

MySpace to Take Entertainment Tack
【Wall Street Journal: July 10, 2009】

昨年来続く、Facebookの世界的急成長によって、一時期の勢いを失ったかに見えるMySpaceだが、音楽や映像を中心にしたエンタメのdestinationとして再生を図るようだ。

このあたりは、メディア業界、正確に言うと、「マス」メディア業界、「マス」コンテント業界の、特徴がよくわかるというもの。

いくつか指摘すべき点はあって、まず、Murdochらメディア・タイクーンたちは、自己資金でエンタメ・ソフトを開発・制作しているので、そのコストのリクープをまず考えないといけないのだが、昨今、DVDの売れ行きもよくないため、オンラインで提供する場合は、もはや最初から有料を考えないといけない、ということ。そのシビアさが、ある意味牧歌的で互助組織的なSocial Mediaに即さないということだと思う。

いわば、Social Mediaは「教会」「集会所」で、Murdochらが提供してきたテレビや映画やDVDといったものはまとめて「劇場」だ。だから、最初は「集会所」として生まれたMySpaceもMurdochのビジネスに沿うように「劇場」に建て変えなければならない。

もっとも、Murdochはしばしば前言を翻すので、この動きも話半分で聞いておいた方がいいのかもしれない。

近いところでは、Wall Street Journalを発行するDow JonesをMurdochが買収した直後は、WSJを無料にして利用者数を増大させ広告モデルで運営したい、と熱弁をふるっていて、WSJ契約者としては喜んだのだが、結局、無料にしないどころか、最近では、成功した数少ないPaid Contentモデルとしてふれ回っているほど。

*

指摘したい2番目の点は、アメリカの場合、「マス」メディアはマス「告知」の場として機能しており、そこに出入りしているAdvertising Agencyも基本的に、商品や企業について「認知」を上げることを主な業務にしていることだ。

ここのところ、アメリカで聞かれる議論は、

Social Media vs Traditional Media
PR communications vs brand ad

という対立構図で、むしろこの構図に従えば、Trad mediaでbrand adを展開してきた旧来のad agencyは、前者の領域には入っていきにくい、ということになる。むろん、メガエージェンシーと呼ばれる広告大手グループは傘下にPRの専業会社を持ってはいるのだが、業務としては明確に分かれている。そこに集まる人材の出身も異なる。

Facebookを有名にしたことの一つとして、一昨年からのオバマ選挙キャンペーンにおける利用があるが、あれは選挙戦術の一つであるOutreachと呼ばれるジャンル、つまり、特定の選挙区で以前なら戸別訪問して一件一件口説き落としていたような地道な作業を、ネットを活用することでより機動力のあるものにしたものだった。選挙キャンペーンについては、outreachの他にmedia adがあり、これは普通の商品同様、しかるべきメディアのスポットを購入し、そこに事前に制作したメッセージを流すというもの。通常、outreachが地上戦、media adが空中戦といわれ、こちらもその担当者の来歴は全く異なる。

だから、Sun Valleyに集まったメディア(と広告)の重鎮からすれば、Social Mediaは、PRやoutreachなどの「あちら側」のもので、自分たちが行ってきたイメージ形成のためのbrand adとは異なるのだ、という「認識上の枠組み」が最初からあると考える方が自然だ。

とすれば、彼らがFacebookのようなSocial Mediaに関心がないというのは、端的に「よくわからない」からだし、あちら側の奴らと自分たちを「同列に扱って欲しくない」という自尊心の擁護もあると考えていいと思う(それは、アタッカーにとってはチャンスでもある)。

*

もっとも、足下の景気後退においては、Googleすらdisplay ad≒brand adを取り込もうと躍起になっている(この間のカンヌでも同じようなことがいわれている)。

Sun Valley: Schmidt Didn’t Want to Build Chrome Initially, He Says
【Wall Street Journal: July 9, 2009】

Googleの関心は、display ad のターゲット属性に応じた個別配信にあるようだ。とはいえ、ターゲット属性に応じた広告の提供は、その時点で伝統的な意味での「マス」の意味合いは消えていく(これは、マイケル・ジャクソンについて書いたエントリーで触れた「マスカルチャーの消滅」と関わること)。

特にMurdochがそうだが、「マス」メディアの人々は、自分たちが持つ「マス」への影響力に固執するところがある。つまり、「社会的影響力の保持」こそが一番の鍵で、そのためには、とにかくより多くの人々、望むらくは「ある地域の人々全員≒国民」のレベルで直接影響力を行使できることを好む。

この点から考えれば、ターゲット属性配信のようなものはあまりにファイン・チューンされすぎるとマスのムーブメントとしては認知されにくくなるので、その分、社会的影響力も微細なものになり、「マス」メディアの人たちの好むものから離れていく。ましてや、Social Mediaのように、はなから友人間・知人間の情報交換の巨大な網目のようなものは、空爆型の「マス」とは勝手が違うという印象を持ってしまう。それもあって、Social Mediaを毛嫌いする傾向があるのだろう。

もっといえば、自分たちの存在を部分的に否定することにつながるので、「マス」メディアの人々の「実存の危機」にもつながってしまう。だから、端的に「認めたくない」。精神分析でいう「否認」の身振りなわけだ。

*

とまれ、少しばかりだらだらと書いてしまったが、ソースがいわばバズのようなものなのでご勘弁いただきたいとまずはエクスキューズした上で、

Social Media vs Trad Media については、機会を改めてもう少し考察してみたいと思うのと、

上のGoogleについての記事には、Chrome以下、最近Googleに関わるものに対して割と幅広くEric Schmidtらが簡単なコメントをしているので、この点についても別途考察の機会を持ちたいと思う。

*****

(追記)

なお、このConferenceの雰囲気については次の記事を参照。
Allen & Co. gears up for annual invasion of Sun Valley
【Los Angels Times: July 6, 2009】

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