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July 25, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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DARPAはクリーンエネルギーでも技術革新のアジェンダセッターになれるのか?

July 25, 2009

op-ed / commentary


author
junichi ikeda

アメリカのペンタゴン(国防総省:Department of Defense)に所属し、インターネットの開発で重要な役割を果たしたDARPA (the Defense Advanced Research Projects Agency)が、クリーンエネルギーの時代に、再び技術開発、技術革新を先導することになるのか、検討した記事。

Can the Military Find the Answer to Alternative Energy?
【BusinessWeek: July 23, 2009】

金融危機の引き起こしたマネーの流動性の低下によって、ベンチャーキャピタルに集まる資本が大幅に目減りしている現在、政府予算は研究開発の原資として再び注目を集めている。

DARPAは、1957年のスプートニク・ショックに触発され1958年に設置された(当初はARPA)。同じ年にNASAも設置された。これによって、米ソの間で宇宙開発競争が本格的に開始されたわけで、NASAが文字通りの宇宙進出という大義の下で運営されたのに対して、DARPAは宇宙開発技術のスピンオフとして開発される大陸間弾道ミサイルに対する防衛・攻略の方を担うことになる。

今ではよく知られるように、そのミサイル防衛用の、つまり、Attack-proof(撃たれ強い?)な戦略意思決定機構を用意するために開発されたのがインターネット(正確にはその元となったARPANET)。ある拠点が攻撃されてもシステム全体が破綻することがないように、分散型の、その意味で冗長な情報ネットワークが開発された。

軍関連の研究開発が民間のそれと異なるのはこういうところ。

民間企業は、突き詰めると最終エンドユーザーによる購入=消費に至らない限り、研究開発に要した資金(=費用)を回収することができない。物財かサービス財かを問わず、何らかの形で「市場交換可能なもの」へと転換しない限り、どれだけ凄い技術を開発し、そのパテントを保有しようが、それが商品化されない限り、価値にはならない。商品開発=マーケティング的には「ニーズかシーズか」、つまり、市場のニーズを発見するか、発明するかしない限り、価値を持たない。とにかく「ニーズありき」。

「ニーズ」に照準するのは、しかし、市場の立ち上がり期には商品スペックの微調整に有用だが、市場の成長期から成熟期にかけては、むしろ自己撞着の結果を招くことが増え、時に袋小路に入ることすら出てくる。利用者は、大なり小なり、現存する商品を通じてその商品の消費の仕方を身につけていくわけだし、販売者は、ユーザーからのフィードバックを商品に反映させるわけだから、利用者と販売者は徐々に「鏡像的関係」に陥っていく。そのループから抜け出せなくなると、商品の魅力は減少していく。少なくとも、商品の象徴的価値は減衰する。

民間企業の開発がこのように「ニーズありき」であるのに対して、軍による開発は(より広くは「政府による開発」)は、最初に「ゴールありき」となる。達成しなければならないゴールがまず設定され、そのための最善の方策が探究される。

つまり、大事なのは、

ゴールがあること。
そのゴールに最短で≒最も効率よく到達すること。

もちろん、ゴールの設定に「有権者の希望」が考慮されることもあるが、軍の場合は、「戦略目標」の方が重視されることの方が多い。

インターネットの場合は、とにかく大陸間弾道ミサイルによる本土攻撃に対して「抵抗力がある」軍の体制が必要で、そのために最適なものとして用意された。

最初に紹介した記事によれば、現在、インターネットに代わって技術開発のインキュベーターとして期待されている「クリーンエネルギー」に対して、軍の要請は、機動力のある軍をつくるために、「より軽量の電源」が欲しい、ということ。そのため、様々な「発電装置」が検討される。そして、最終的な判断は、軍の配備上、どれが最も効率的=コストコンシャスか、という点からなされる。つまり、「電力源のロジスティックスの効率化」に焦点が当てられる。

DARPAがクリーンエネルギー開発に関わることの重要性は、それによって、大学や民間企業の研究機関に政府の研究予算が流れるということだけでなく(これはこれで重要だが)、軍が用意する「ゴール設定」に対して最も合理的な実現方法の探索が行われ、レベルの異なる技術が同一平面上で評価される土台を作るところにある。

つまり、「アジェンダ」が設定されることで、系統の異なる技術の保持者の間で、知恵比べ、が始まる。「競い合い」が行われる。この「競い合い」のために相互に情報を流すネットワークもできる。軍の研究が恒常的ならば、簡単なメディアもできる。つまり、開発情報が流通するネットワークができる。そのことが、軍が準備したアジェンダ以外の副産物としての技術を生み出す場合すらある。

面白いのは、そうした副産物が、しばしば民間において、Game-changingな商品開発のキッカケになるところ。研究開発マネジメントの難しいところは、研究活動がどこかアーティスティックなところがあって、実際にやってみないと何が出てくるか、取り組んでいる本人自身わからないこと。取り組んでいる過程で、そもそも研究者自身が何をしようとしていたか、ようやく気付くことすらある。

単純なゴールの設定は、このように、健全な試行錯誤のためにも有効だ。

*

NYにいた時、海軍か海兵隊か、マンハッタンに寄港する時があって、その時は、町中に軍服姿の兵隊が溢れていた。その中で、軍の方は軍の方で、アメリカ市民に対するPublic Relationsの一環として、彼らの研究開発内容を紹介する場を用意していた。といっても、数日でマンハッタンを離れるため、その会場は、彼らの小型艇の中で行われた。確か、5人くらいの軍服を着た研究員が口頭で説明を行っていた。

とても小さな展示だったのだが、それでも展示内容としてとてもわかりやすかったのは、彼らがゴールとして掲げていたのが、「兵士の身を守る」、とりわけ、「兵士の四肢を守る」、ということで、そのために、様々な手段が、様々な技術で提供されていたところ。

「兵士の身を守る」ためには、そもそも兵士が現場に出向かなければよい。そのために、遠隔操作による探索装置が、車や飛行機、凧、などで提供される。ラジコンカーやグライダーのようなものがあったと記憶している。

どうしても兵士が現場に出向かなければならない場合、四肢を守ることは重要になる。四肢の欠損は、現場においては兵力の低下につながるし、退役後の生活に様々な制約を与えてしまう。だから、四肢を守るために、ここでもできるだけ遠隔操作が志向され、兵士の着る軍服というかスーツの素材や形状を工夫したりしていた。

細かいところはもう記憶が曖昧なのだが、その時の印象は、とても簡易な展示だが、それでも、研究開発の目標が明確だし、そのためのアプローチが多岐にわたっていることもわかって、とても面白かった。

同時に、それ以前に何度か参加した、技術関連の展示会(ラスベガスなどで開かれるコンベンション)を思い出して、イベントとしては華々しいけど、展示内容は散漫だな、と思い出していた。そして、その時、結論的に感じたのは、あそこには「アジェンダ」がないからだ、ということだった。

*

DARPAのクリーンエネルギーへの関わりは、だから、「アジェンダ」のセッティングにこそある、と捉えるべき。もちろん、他の政府機関も同じく「アジェンダ」を出すが、軍の予算規模は格段に大きい点と、軍はミッション・オリエンテッドであるため、より中立的なアジェンダを出しやすいという点で、他の政府機関と大きく異なる(匹敵するのはやはりNASAだろう)。

クリーンエネルギーについては、記事にあるように、デトロイトの自動車業界、IBMやBP(British Petroleum)などの多国籍企業、それにシリコンバレーのスタータップが参入して、技術開発、商品開発で鎬を削っているという。

DARPAは、インターネットの開発を通じて、予算的にもアジェンダ的にも、カリフォルニア、とりわけシリコンバレーの興隆に、後から見ると、大きく貢献した。先日亡くなったRobert McNamaraがSecretary of Defenseを務めていた頃、RAND corporationの提案もあって、西海岸に多大な軍の予算が流れた。

DARPAは、今回のグリーンエネルギーの場合でも、新たにシリコンバレーのような研究開発地区を育てることになるのだろうか(たとえば、テキサスあたりはその候補だと思うが)。こういう意味での、DARPAのインキュベーション機能には、しばらく注目していきたいと思う。

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