FERMAT communications visionary

July 27, 2009

op-ed / commentary


author
junichi ikeda

print


ヘッジファンド規制: Anglo-America vs Europe

July 27, 2009

op-ed / commentary


author
junichi ikeda

ドイツとフランスが先導しEUで導入が検討されているヘッジファンド規制制定の動きに対して、イギリスとアメリカが協働してロビー活動を行い、EUから譲歩を引き出そうとしているようだ。

U.S. Enters Europe's Fund Debate
【Wall Street Journal: July 27, 2009】

対象となるのは、EUが導入を検討しているAlternative Investment Funds Directive。

(EUのDirectiveは日本語では「指令」と訳されることが多いが、とりあえずはEUの法律と思っておけばよい。EUでDirectiveが可決された後は、EU加盟国は各国で関連する国内法の改正に手をつけることになる)。

このDirectiveで対象とするFundには、ヘッジファンドだけでなく、もっと広くPrivate-Equity Fundやオルタナティブファンドも含まれる。

主な規制内容は:

●レバレッジ(借入金)に上限を設ける。
●想定され得る損失が生じた場合その補填ができるよう自己資本の拡充を迫る。
●ポートフォリオに関する情報開示(disclosure)を義務づける。

銀行に準じる形でしっかり規制しようという意図が感じられる。

現在、アメリカでも金融業界の規制見直しが検討されていて、対象としてヘッジファンドも入っており、情報開示の義務化などが検討されている。しかし、レバレッジの上限などは今のところアメリカでは規制対象に入っていない。レバレッジは、ヘッジファンドのいわばアイデンティティの核のようなものだから、そこに上限を設定するのは、そもそもヘッジファンドの否定になりかねない、というあたりが主だった理由。

そのため、Directiveが可決された場合、アメリカのヘッジファンドはEUでの営業が実質的に行えなくなる可能性がある。そこで、同じく、Directiveの規制内容の緩和を望んでいるイギリスと同調してEUに働きかけようとしているわけだ。

金融産業のあり方については、Anglo-American(イギリスとはアメリカ)が共同歩調を取ることが多いが、それは、イギリスが大英帝国の発展とともに拡充していった金融決済ネットワークを、ポンドからドルへ基軸通貨が移る過程で、アメリカも間接的に利用するようになっていったから。20世紀の中頃までは、アメリカは製造業と金融業のバランスがとれた国だったわけだが、80年代あたりから、そのバランスが崩れ始めて、金融業はイギリス並みに金融業として完結した利潤の追及を行うようになる。これは、製造業側も相当の資本を蓄積し、必要資金を直接市場から調達するようになったため、昔のように銀行が資本調達の仲介をするケースが減ったことの帰結でもある。

記事の記述で興味深いところは、ヘッジファンドは今回の金融危機はいわゆる「銀行」のせいであって自分たちには責任はないと主張するくだり。銀行が銀行の領分をきちんと守っていると思っているからこそ、リスクを取りに行けたつもりでいたのが、ふたを開けてみたら、その銀行自身が自分たちと同じことをしていた、ということ。実際、EUのDirective検討関係者たちのもヘッジファンドが直接の原因でないことは理解しているが、しかし、規制強化は、今後のシステミックリスクを回避するためのものだという。

LTCMにも参画したロバート・マーティンが、確か、金融自由化の果てには、金融市場に参画するプレイヤーは皆、金融仲介サービス業者へと変貌していく、という論文を書いていた。その意味で、従来の銀行も投資銀行もヘッジファンドもなにもかもが原理的には同一の存在になりうる。だから、改めて役割に応じてあるカテゴリーの金融機関が行えることを人為的に再定義する時期なのかもしれない。その意味で、Directiveの見方は適切なのかもしれない。

金融自由化による金融サービスの興隆は、システム導入や技術開発という点で、IT産業にも大きな恩恵をもたらしていた(日本でもFXが一般化したわけだし)。したがって、金融産業の新規制導入は、回り回って、IT産業にも影響を与えることになる。

もっとも、金融産業におけるinnovationは常に、規制の「穴」を衝くことでなされてきた。規制当局との知恵比べは今後も続くと取る方が適切なのだろう。

blog categories

all categories...

magazine / web
articles

more...

books

more...

information

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。

more...