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July 31, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Microsoft-Yahoo!のサーチ提携は、新たな反トラスト法ロジックの構築に火をつけるのか?

July 31, 2009

op-ed / commentary


author
junichi ikeda

数年越しの協議を経て、MicrosoftとYahoo!の業務提携が発表された。

Microsoft-Yahoo: A Rival for Google?
【BusinessWeek: July 29, 2009】

もっとも発表された傍から、反トラスト法関連当局である、司法省反トラスト局やFTC(連邦取引委員会)の目は光っているし、なにより、連邦議会内の担当議員たち、たとえば、上院のJudiciary CommitteeのHerb Kohl議員は、提携内容の精査は必須という見解を既に表明している。

Drawing Scrutiny, Microsoft and Yahoo Strike a Partnership
【Washington Post: July 30, 2009】

ということで、簡単には認めてもらえそうにはない。

Steve Ballmerは、今回の提携については、ネットにおける「規模の経済」の観点から、Googleに対抗していくにはどうしても必要だと主張している。

Behind Microsoft-Yahoo: The Online Economics of Scale
【New York Times: July 30, 2009】

簡単にいうと、Bingを利用する人数を格段に増やし利用件数を増やすことは、Bingの性能向上に貢献する。フィードバックによる学習効果が蓄積され、Googleに対抗することができる。いわゆるNetwork Externality(ネットワーク外部性)の効果によって、Bingの性能が向上し、その結果、広告主にも利用者にも便益が生じる、というロジック。

しかし、ネットワーク外部性への言及は諸刃の刃のところがあり、司法省反トラスト局トップのChristine Varneyは、インターネット産業については、「ネットワーク外部性」の効果によって、あっという間に独占状態が生じうるので、反トラスト法の適用については早期に動く、という意向も表明している。

Microsoft-Yahoo: Antitrust Hurdles Loom
【BusinessWeek: July 29, 2009】

また、反トラスト法適用の歴史から見れば、業界2位と3位の企業の合併は認められていない。

今後の手続きを考えると、反トラスト法の観点からの検討は必至だろうから、まずは、司法省反トラスト局、FTC、さらに連邦議会委員会、などの公聴会で、MicrosoftとYahoo!は、この提携の有効性を主張することが必要になる。当然、上のBallmerのようなロジックが必要になる。

法務戦略上はGoogleなどの企業から、またPrivacy保護などの観点からいくつのかのadvocacy groupから意見も提出されるだろうから、そこで示された疑問に対しても、対応しなければならない。

その上で、当局の判断がなされる。

その結果いかんでは、法廷闘争、という可能性もある。その場合は、被告(MicrosoftとYahoo!)と原告(反トラス法当局)の間で、反トラスト法の解釈をめぐる議論が交わされ、その判断を法廷が行うことになる。

*

いずれにしても、この提携の有効性についての議論が今後交わされることになる。

その時、気になるのは、たとえば、

●2位と3位の企業といっても、合併するわけではなく、サーチに関する事業について、Yahoo!がMicrosoftがアウトソースをする業務契約が検討対象になるところ。

●「ネットワーク外部性」のようなメカニズムズをどこまで法的根拠として組み込むのか。

というあたりか。

また、反トラスト法当局からすると、同時にGoogleやAppleについてもいくつか検討課題を抱えていて、たとえば、「MicrosoftはPC市場で独占的地位にあり、Googleはcloud computingの市場で独占的地位になりつつある」というような見解を示していたりするが、しかし、果たしてcloud computingという現象を、PCのような物的存在物と同類に考えることができるのかどうか、という疑問も生じる。

たとえば、Eric Schmidtは、GoogleはMicrosoftと違って、市場の全てを占有するつもりはない、と発言していたりする。

Inside Google: Eric Schmidt, the man with all the answers
【WIRED UK:June 30, 2009】

(なお、MicrosoftのEmpire的振る舞いについては、以下のOp-Edがうまく説明している。
Techdom’s Two Cold Wars
【Wall Street Journal: July 23, 2009】 )

反トラスト法がアメリカで導入された19世紀末から20世紀初頭の状況では、巨大企業の専横によって、新しい企業が参入することができず、その結果、社会階層が固定してしまうことへの懸念が広まっていた。だから、反トラスト法の根底には、市場メカニズムの稼働の維持、ということだけでなく、むしろ、人々が平等に市場に参画できるという意味でポピュリズム的な動機があったともいえる。

そうした、反トラスト法導入の経緯を考えれば、そもそもそういうことをしないと公に表明している企業の行動を、予防的に事前に縛ることができるのかどうか、は実は微妙なのではないかと思ったりもする。

また、「契約」や「取締役会の就任」のような、「事実上の支配関係」を扱うものについては、「事実上」ということだけはあって、かなりの部分、「見立て」の程度によるのではないかと思っている。

今回のMicrosoftやYahooの契約は、サーチ事業の「アウトソース」に関するもので、これもITの浸透による組織構造の新たな形態、にあたる。

こうした、Web-centricの時代の様々な状況に対して、(ブッシュ政権の反トラスト政策がゆるめであったこともあり)オバマ政権の反トラスト局は、ほぼ初めて反トラスト法的観点から分析を行い、見解を示すことになる。

そういう「ネットワークが本格的に社会に浸透した時代の反トラスト政策の原理・原則」を顕わにしていく作業のきっかけを与える出来事の一つとして、今回のMicrosoft-Yahoo!の契約を捉えることもできると思っている。

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