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November 19, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Tinkererの再来、“Hackerspace”の誕生: もの作りをhackする新世代innovators

November 19, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

Tinkererというのは、日本語にするのは難しいのだけど、アマチュア発明家、とか、何でも職人、のようなニュアンス。典型的なイメージは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、クリストファー・ロイドが演じた、白髪の発明家ドク。自宅のガレージや農場の納屋に、自分専用の工房を築き、そこに機材を集め、なにやら怪しげな発明を行うような人物。

古くはグラハム・ベルの電話から、最近ではAppleによるGUIのPCまで、アメリカの発明の多くは、ガレージで作られたという神話がある。その担い手がTinkerer。

そのTinkererがアメリカで再び注目を集めるようになり、もしかしたら、過去のTinkererたちと同様に、新たなInnovationの担い手になるかもしれない、と伝えるWSJの記事。

Tinkering Makes Comeback Amid Crisis
【Wall Street Journal: November 13, 2009】

Tinkererが増えた直接的な要因は、サブプライムバブルが弾けて、工学部出身の学生がWall Streetで金融工学をバリバリに駆使して大儲け!みたいなキャリアパスが描けなくなったから。金融業にかえて、工学部の学生が再び製造業を目指すようになった。そのためか、最近では「機械工学」を専攻する学生が再び増えてきているようだ。

もちろん、製造業大手に勤める人をTinkererとは呼ばない。上の記事で紹介しているTinkererというのは、そういう「製造業の風、再び」のような風潮の中、仲間で「工房」を作り、「もの作り」でイノベーションを興そうとしている人たち。

こうした工房は“Hackerspace”と呼ばれ、全米各地で生じているという。

さらに、今どきのTinkererは、昔と違って、ITというツールを持つ。PCを使って設計をするのはもとより、他のHackerspacesの人びとともコラボレーションしながら設計をリファインしていく。利用するソフトウェアとしてOpen Sourceのものを利用すれば、制御系のソフトウェアを安価に作り込むことができる。

ハードの部分についても、利用工具や素材が安価になることで利用しやすくなっている。材料工学の進歩で、加工や整形の柔軟性が高い素材も増えているという。

記事中の“DIY with Technology”というのは、このあたりの様子をうまく表している。

つまり、DIYの随所、つまり、素材やツールの選択、設計や製造の工程、などの随所で、テクノロジーの恩恵を受けることができるようになった。

記事中では、3D Printerという珍妙な発明品が紹介されている。

*

こうしたHackerspacesが生じる状況をみると、情報技術が一通り世の中に行き渡ったことを痛感する。つまり、今日では、PCを使うのは、およそ工学部の学生であれば、当たり前中の当たり前のことであり、裏返せば、情報技術を使うこと自体、あるいはソフトウェアを書くことだけでは、エンジニアとして大して差別化できない、ということである。

実際、Hackerspacesに集う人びとは、情報技術以外が主専攻のようだ。

面白いのは、改めて機械工学に関心が集まっていること。

しかも、DIY的に機械をつくるところで、その制御系の部分は、最新鋭のOpen Source Softwareも利用できてしまうこと。情報技術の登場によって、一般に制御系のユニットは非常にコンパクトに、つまり小型化し省スペースにすることができるので、逆に、外側のその機械の表面部分に関するデザインの自由度も上がる。そのデザインの自由度を、新たな加工技術や材料技術の成果がサポートする。

たとえば、制御系のOSはGoogleのAndroidベースの何かができてしまったりするのかもしれない。

さらにもっと想像を広げれば、たとえば、こうしたHackerspacesから、斬新なEV(Electronic Vehicle)が生まれるかもしれない。ちょうど町工場からホンダが生まれたように。

実際、EVは、従来の自動車と異なって、内燃機関=エンジン、を必要としない。基本的にはモーターがあればいい。そのため、駆動系については非常にシンプルな設計が行えて、その分、自由な形状・外観をデザインすることができるという。

内燃機関は非常に複雑な機構で、自動車メーカーやエンジンメーカー毎に多くの技術的蓄積がある。利用される部品も非常につくりこまれたものであるという。こうした「蓄積された技術と技能」の存在が、自動車業界への参入障壁をつくってきたのが定説。

それに対して、EVは基本的にモーターだけ。参入障壁は低い(というか、ないようなもの)。だから、EVには、従来の自動車業界以外の分野からの市場参入が予測されている。もちろん、その候補には、Hackerspaceに集まる人びとも含まれるわけだ。

(たとえば、アシスト付き自転車なんて、EVの走りのようなもの。以前、セグエイが登場したとき、日本では原付扱いでナンバープレートが必要だ、といって笑い話になったことがあったけど、そういうことが随所で起こることになるのだろう)。

世界中で、現在、EVの導入に向けた計画・政策が加速しているときく。ハイブリッドカーで先行したトヨタに対して、一気にEVに向かうことで自動車技術の基盤を書き換えてしまい、トヨタのアドバンテージを無効化しようとする動きもあるようだ。

こうした技術の非連続な進化による市場構造の書き換えは実際に起こりうるし、それが政策的なアジェンダになることもある。

デジタルテレビなどその最たるもの。80年代に日本のAVメーカーは世界市場を席巻し、その余勢を駆ってアナログ・ハイビジョンを世界標準にしようとする動きが起こると、アメリカと欧州はオリジナルの規格をATV(Advanced TV:次世代テレビ)として提案し、いつの間にか、ATVはデジタルテレビとして再定義され、アナログ・ハイビジョンは世界標準から外れてしまった。その一方で、PCとインターネットが登場し、そこで、Win-telが基本仕様になったところで、PCメーカーは基本的にアセンブラーになり、多くの事業者が参入するようになった。

こうした動きが自動車というかEVでも起こりうるのではないか。

*

TinkererやHackerspaceの動きは、こうした未来の徴候のように思える。

情報技術が一通り行き渡ったところで、それがDIYの世界でも利用できる。そして、“hands-on”の世界、つまり、みずから手を使ってものを作るところに適用できるまでになった。

裏返すと、あたかも、ソフトウェアを書くがごとく、物作りに向かう。システムをhackするがごとく、ものの有り様をhackする。ある意味で、ゲーム感覚や、ネット感覚が、もの作りの世界に再投入されることになる。

そうであれば、Hackerspace、というのは、とても含蓄のある表現だ。

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