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December 03, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Web全体のFreemium化を加速させる?: Googleの“First Click Free” プログラム

December 03, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

Murdochによる「Google外し」ならびに「Microsoftとのタッグ」の動きを受けてか、Googleが“First Click Free” プログラムという、News Site閲覧方式を公表した。

Google to Let Publishers Set Limits
【Wall Street Journal: December 2, 2009】

Google Restricts Free Reading on Pay News Sites
【New York Times: December 2, 2009】

“First Click Free” プログラムは、今まで有料コンテントへの「抜け穴(loophole)」的アクセスを可能にしていたGoogle Newsのあり方を変えるプログラム。

今までは、Goolge Newsで表示されたニュースは無条件にアクセスが可能だった。そのため、契約料が必要な有料ニュースサイトの記事についても、Google News経由でアクセスが可能だった。つまり、Google Newsを経由すれば、有料ニュースサイトの記事も無料で無制限に読むことができた。

「抜け穴(loophole)」というのは、このことを指す。

“First Click Free” プログラムは、この無条件アクセスを辞め、プログラムの名前にある通り、ある有料ニュースサイトへのアクセスについては、「ある一日の、最初の一回のみFree(=自由+無料)にアクセスができる」よう制限するシステム。二つめの記事以降は、その記事を見るには、登録手続きなり有料契約が必要、というメッセージが表示されるようになる。

(なお、無料でアクセス可能な記事数については、任意に設定が可能。上で「最初の一回のみ」としたのは説明を簡単にするため。上のWSJの記事では、デフォルト設定では5回とされている。いずれにせよ、無料でアクセスできる記事数に上限を設けるのが、“First Click Free” プログラムの狙い)。

具体的に、件のMurdoch傘下のWSJを例に取れば、Google Newsによって表示されたWSJの記事は一つめの記事であればアクセス可能だが、そのアクセスを行った日のうち(多分、24時間以内、ということだと思うけど)に再びWSJの記事をGoogle News経由でアクセスしようと思っても、上述のように、契約しないと読めません、というメッセージが出るだけになる、ということ。

(もっともWSJはGoogleのクローリングを排除して、Microsoftに独占的クローリング権を渡すようだから、ある時点以降、Google NewsにはWSJをはじめとするMurdoch傘下のニューサイトはそもそも記事として表示されなくなる)。

これは、Murdochが、Google Newsによる「抜け穴」的アクセスを泥棒呼ばわりしたことへの対抗措置といえる。なぜ、泥棒呼ばわりされるか、というと、GoogleがGoogle NewsによってGoogleへのトラフィック数を上げ、さらに検索数を上げることでGoogleの検索広告の売上に寄与しているから、という理屈。Google News の頁には広告リンクは掲載されていないので、こういう理解で間違っていないと思う。

このあたりの理屈は、アメリカでは、「フリーリンクはコピーライト・ロー(copyright law)違反になるのか」という争点として、留学していた2004年前後でも話題になっていた。Googleの解釈では、いわゆるFair Useのカテゴリーに入るから問題ない、というもの。

*

ここでちょっと横道にそれるのだが、コピーライト・ローについて少しばかり脚注的に。

ここでは、copyright lawに対しては「著作権法」という訳を用いず、「コピーライト・ロー」としておく。

というのも、copyrightは文字どおり「コピーをする権利」であって、英米法の歴史では元々は印刷機を回して(聖書を)出版する権利、のことを指していた。つまり出版社(publisher)の側の権利(というか当初はイギリス王から与えられた「利権」という方が適切だと思う)であった。つまり、「著作権」といって普通想像されるような「作者の権利」としてスタートしたものではなかった。

この、そもそもの出発点が「版元の利権」か「作者の権利」かは、英米法と大陸法との間で、今日、「コンテントのライセンス」を巡る扱いの違いが生じる際の、根本的な発想の違いの一つとなる。

というわけで、ここでは、こうした問題意識の下で、コピーライト・ロー、という表現を用いることにする。

(なお、個人的な見通しとしては、こうした英米法系統と大陸法系統の解釈の違いや、産業化された商業コンテントの多くが集団作業によって制作されている現実を踏まえると、コンテントの扱いについては、コピーライト/著作権の体系よりもパテントの体系を利用した方がプラグマティックなのではないかと思っていたりする。もっとも、パテントの考え方がとても経済合理的なものであることを考えると、総じて、シカゴ学派、リチャード・ポスナー的な、「法と経済学」的な発想になるようにも思えて、少しばかり躊躇もする。いずれにしても、このことについては、どこかで機会があったら、あるいは、適切な事例が見つかったときにでも、具体的に考察してみたいと思っている)。

*

さて、フリーリンクの扱いについては、Googleの他にも擁護する立論構成がある。たとえば、コロンビアロースクール教授でEFF(Electric Frontier Foundation)の法律顧問も務めているEben Moglen教授は、リンクを張るのは公道や公園などのpublic space(公の空間)で声を上げて「そこにある」といって指し示すような行為に準じるから、フリーリンクは、First Amendment(アメリカ憲法修正第一条)のFreedom of Speech(言論行為の自由)に当たる、として問題なし、と主張していた。

もっとも、擁護するためにFirst Amendmentを持ち出さなければいけないほど、フリーリンクというのが、微妙な案件であったと解釈することも可能なのだが。

いずれにしても、こうした法律的にはボーダーライン上の問題は、事業の本質がウェブ全体のクローリングによるリンクデータベースの構築にあるGoogleには、常につきまとう問題となる。

このようにGoogle Newsは開始当初から法律的には微妙な存在だったわけだが、しかし、コピーライト・ローというのは、アメリカの場合、基本的に民事案件なので、権利侵害をされたものがそれを法廷に訴えない限りは放置されたまま。そして、アメリカ経済が好景気の時は、Googleが主張するとおり、確かにGoogle News から誘導されたトラフィックが、あるニュースサイトのアクセス数の増大に繋がり、それに相関して当のニュースサイトの広告収入なり契約収入があがる、ということがあった。

簡単にいうと、Google Newsは公道を練り歩くサンドイッチマンのように顧客を引き込んでくれる存在であり、ニュースサイトにもプラスの存在で、つまりは、Googleとニュースサイトの間で「密月」となる条件が揃っていて、そのような時には係争を引き起こすという愚を起こすものはいなかったわけだ。

ただ、この密月が微妙なバランスの上で成り立つ、その意味で一触即発のものであったことも確かで、その表出例が、今回のMurdochの一連の動きになる。

これも簡単にいうと、アメリカが経済不況に突入したことと、従来のアナログマスメディアからWeb-centricのデジタルマスメディアが本格的にたちあがることが、ほぼ同じタイミングで生じてしまったため、アメリカのマスメディア産業がダブルで業績不振に陥ってしまった。そのため、搾り取れるところからはどこからでも利益を搾り取れ、という話になり、件のフリーリンク問題が再燃してしまった。

しかも、今回は、タイミングよく、Googleの競合としてMicrosoftがBingを用意していた。そうしうた環境の下で、フリーリンク問題が再燃した。

*

ということで、ようやく“First Click Free” プログラムについて。

このプログラムは、正確にいうと、Murdochから非難されたことへの対抗、ということだけでなく、もう一歩踏み込んで、MurdochがBingとの排他的契約に取り結ぶ動きの「余波」を、最小限に食い止めようとするものだといえる。

上に書いたように、Google Newsは最初からいわば爆弾を抱えたプログラムで、Googleとニュースサイト群の間での協力関係が破綻すれば容易に瓦解し得る。

そして、Murdochが示したMicrosoftとの排他的取引が世界標準になる場合、Googleは世界中のニュースサイトに対してクローリング権の買い取りをしなければいけなくなる。そして、最初期においては、そうしたクローリング権の販売を有益と判断する著名サイトの動きが活発化する。つまり、かつての“Content is King”と類した、プチバブルの状態を再び引き起こしてしまう。

多分、Googleの読みとしては、こうしたプチバブルの発生は、長い目で見れば、ニュースサイトにとっても、ウェブのユーザーにとっても、もちろん、Google自身にとっても得策ではない、と考えているように思える。

なぜプチバブルかというと、前にも書いたように、この排他的クローリング権の売買は、短期的には、サーチエンジン会社からニュースサイトへの所得移転でしかなくて、ウェブにおいてニュースというコンテントがどうやったら再生産可能なモデルを作ることができるのか、という構造的な問題への取り組みを先延ばしするだけのように思えるからだ。

短期的には、ニュースサイトはサーチエンジンからの所得移転で損益計算書レベルの業績は数年よくなるかもしれない。けれども、そのことは、紙の新聞やテレビのニュースをどうするか、とか、ウェブに代表されるCommunications Technologyの変化がユーザー側で引き起こす「メディア企業への期待≒ニーズ」の変化をどう捉えるのか、という本質的な課題から目をそらさせるだけのことのように思える。

ということで、“First Click Free” プログラムを導入することでGoogleが考えていることは、次のようなことだと思う。

「抜け穴」と呼ばれたものを実際にふさいでみて何が起こるか、実際に見てみましょう。
抜け穴をふさいでみて、ユーザーがどう動くのか、それをまず見てみましょう。
そして、そのユーザーの動き方の結果を見て、合理的かつ現実的なオプションを考えましょう。

裏返すと、Murdochのように性急な動きはしないでください、ということなのだと思う。

*

もう一つ、そういうディフェンシブな動きに加えて、オフェンシブな側面も“First Click Free” プログラムはあるように思える。

それは、これをきっかけにして、GoogleがWeb全体のFreemium化を進めようとするのではないか、ということ。

つまり、Web全体で無料と有料という状態が「ほどよく」混在する方向へと先導したいとGoogleは考えているのではないか。

もっといえば、Googleからすると、そうしたFreemium化を進めることが、今後も引き続きWebの世界が豊かに成長していくために不可欠だと思っているのではないか。

いうまでもなくGoogleの現在の立ち位置は、Webの全体像、エコシステムを最も俯瞰できる立場にあるわけだから、Webの世界の帰趨は、そのままGoogleの成長にも直結するはず。だから、誰にも増して、Googleこそが、Webの将来について真剣に考えているはずだ。

このような見立てを持つのは、それほど無理なことではないと思う。

冷静に考えれば、確かにFreeしかないウェブの世界は、事実上、広告的なものでしか経済的な活動が再生産されない構造になっている。正確には、広告的な経済活動で支えられている脇に、純然たるボランタリーな活動がSNSやブログ、最近であればTwitterのような形で存在する一方、AmazonやeBay、あるいは、これにwalmart.comを加えてもいいけど、純然たる商取引サイトがある。

けれども、Web全体が「サービス志向」になればなるほど、こうした活動、つまり

広告的なもので支えられる活動 (Free領域1)
純然たるボランティア活動 (Free 領域2)
純然たる商取引活動 (Premium領域1)

の間の境界を壊乱させていかないことには、Webの成長・進化はありえないはず。

なぜなら、サービス産業、というのは、顧客のわがままに徹頭徹尾応えるビジネスだから。そして、上の三つの活動は、ユーザーから見れば、いずれもブラウザーに映っているものでしかないから。それらの間をつなぎたい、という要望は自然にでてくるはず。

このとき、FreeとPremiumの間を結ぶFreemiumの概念が生きてくる。

つまり、対価の発生のタイミングや対象を、さながらラジオのダイヤルをチューニングするように、調整可能にする、柔軟なシステムを実現することでユーザーのわがままに対処する。こうしたシステムが稼働する意義は大きい。

こう書くとなにやら複雑なことのように見えると思うのだけど、簡単にいうと、スーパーのタイムセールスのようなことを、もっと大々的に、もっと異業種間の取引を含めて、行うようなことだと思っている。日本であれば、ポイント制で生じているような、対価の発生タイミングの曖昧化や、ディスカウントなどのインセンティブ基準の可変化、のような動きを包含したもののように思える。

そして、そのシステムの要素の一つが、GoogleであればCheckoutのような、マイクロペインメント技術の応用、ということになると思う。

*

ということで、今回の“First Click Free” プログラムは、

短期的には、

Murdochの動きへの牽制
ユーザー行動の実験

であり、その結果を見て、ニュースサイトにおいては、従来通りのフリーリンクを選択した方がいい、というところも出てくるだろうし、反対に、有料化を試みた方がいい、というところも出てくるはず。

そして、後者の有料化のオプションについては、たとえば、Google Checkoutを使ってもらうという手が出てくる。

Checkoutは、ユーザーの登録も必要になるだろうから、これを通じてユーザーへのCheckoutの浸透も同時に行える。

そうした上で、こうしたニュースサイトでの試みを公表するすることで、一般の利用認知を上げていく(なにせ当のニュースサイトが最初の大手ユーザーだから、PR手段としては最適のはず)。

そうした上で、大きな流れとしての「WebのFreemium化」の第一歩、一里塚としていく。

このようなシナリオを描いているのではないか、と思ったりする。

もっとも、何ごとも思惑通りに行かないものだ、というのは世の道理だから、上で書いたのも、あくまでも思考実験、想定シナリオの一つに過ぎないのかもしれない。

とはいえ、「WebのFreemium化」というのは、Webの向かう方向がサービス領域になればなるほど、不可避的に生じる動きのように思っているので、そのための出発点としては、これだけ注目を集めているニュースサイトの有料化問題、というのは、それが公共的な問題=公共政策の課題、にも転じやすいという意味で、Freemium化へのスタート地点としては悪くない案件だと思う。

実際、FTCでもシンポジウムを行うぐらいなわけだし。
(このシンポジウムにあわせて“First Click Free” プログラムも公表されている)。

ということで、「Web全体のFreemium化」仮説の下で、しばらくの間、一連のWeb関連の動きを眺めていきたいと思う。

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