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December 11, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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《軍-消費者-複合体》の誕生

December 11, 2009

op-ed / commentary


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junichi ikeda

かつてはテクノロジーの最先端は軍事技術であり、その民生品用スピンオフが家電やITを支えていたが、どうやらそのベクトルが逆転したようだ。その結果、《軍-消費者-複合体》とも呼ぶべき事態が起こっているという。

The military-consumer complex
【Economist.com: December 10, 2009】

War games
【Economist.com: December 10, 2009】

Military-Consumer-Complex=《軍-消費者-複合体》というのは、もちろん、《軍-産-複合体》=Military-Industrial-Complexのもじり。

アイゼンハワー大統領が1961年の退任演説の際に使った表現で、軍需産業と軍が密接に結びついた形でアメリカ政府(ホワイトハウス、連邦議会)を浸食している状況を描写した言葉。後日、ベトナム戦争の泥沼化によって、その浸食ぶりが証明された。

ちなみ、この表現のComplexには「複合体」という訳が通常当てられるが、complexは、精神分析のコンプレックスでも使われているように、もともとの語感は、「ともに畳み込まれていること」。だから、「複合体」というよりは「複層体」という感じで、「複合」から来るアマルガムのような融合した感じ、というよりも、それぞれ個体としては独立しているものの、それが幾重にも複雑に絡み合っていてほどけない、という感じで取る方がいい。あくまでも独立した存在が互いに絡み合っている感じ。決して一体化した存在として具体的に現れるわけではない。

さらに、ちなみに、この「○×複合体」という表現は、主に特定の産業が連邦政府と癒着している状況を示す言葉としてよく使われるもので、たとえば、クリントン大統領時代の、ルービン財務省長官らが主導したといわれる、Wall Street-Treasury-Complex(ウォール街-財務省-複合体)という表現もあった。

タイトルの《軍-消費者-複合体》というのも、こうした言葉遊びの一つなわけだが、政争まみれの言葉として紹介されたのではなく、単純に、軍が消費者向け商品の技術を軍事技術の一部に採用するようになっている状況を指している。

インターネットの成長史を記す際にしばしばいわれるように、従来は、軍で開発された技術が民生転用されて各種の情報化商品が編み出された、という説明がとられてきた。だから、一国の技術開発力を維持するには、軍の技術開発予算が十分確保されることが必要だ、というロジックで、実際、研究開発が行われてきた。

第二次大戦後、StanfordやCal-tech、MIT、といった「技術系大学」が大学の予算規模を拡大し、アイビーリーグなどの伝統校に伍するだけの学術的名声を勝ち取っていった背景には、いずれも、冷戦時にアメリカ連邦政府の研究開発予算、とりわけ軍の開発予算の流れにしっかり自分たちを位置づけたということがあった。

そうしたフレームが、冷戦崩壊後崩れ、民生転用された技術の方が高度化を遂げ、今では、軍とITを活用した民生品を提供する企業との関係が逆転した。そうした、状況を指しているのが、《軍-消費者-複合体》という表現になる。

記事中にもあるように、軍がiPhoneのアプリを利用したり、、PS3のコンソールを利用して新兵の訓練用に使ったり、あるいは、民間のCGエンジンを活用してシミュレーションを行ったり、というように、民間のほうでコンシューマ向けの商品を開発の途上で生まれた技術を、説教的に利用していこうとする動き。

実際、そうした場面に出くわしたことが個人的にはあった。海兵隊の技術部門の人たちが研究成果を市民に開放しているところで、軍艦の操舵を確かHP製のパーム型PDAで行うという試みをデモンストレートしているのを見たことがあった。そうしたことが、もっと全面的に今のアメリカ軍で採用されている、というわけだ。

要するに、20年前に民間転用されたITは、現在までの間、もっぱら消費者向け商品の開発というフィールドで技術的な進化を遂げたわけだが、その進化はとうとうそのまま軍事的に利用できるほどのレベルにまで高度化されてしまった、ということだ。

裏返すと、民間の商品で利用するにはスペックが上がりすぎた、ともいえるわけで、これは、前に書いた「世界商品のGood Enough化」の動きとは、ちょうどネガとポジの関係にあるようにも思える。

それにしても、iPhoneは音楽をdemocratizeする、と書いた翌日に、iPhoneが軍事力をdemocratizeするような記事に出くわすとは思っていなかった。技術は人の使い方次第で何にでもなりうる、ということを実感させられた次第。

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