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March 08, 2010

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Avatarがオスカーを逃した訳

March 08, 2010

op-ed / commentary


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junichi ikeda

今回のアカデミー賞作品賞は、興行成績だけならダントツにナンバーワンだった" Avatar"を押さえて"The Hurt Locker"が受賞した。最も金のかかっていない映画が、最も金のかかった映画を打ち負かした。

Twitter上で半ば冗談のつもりで、Avatarが受賞したらハリウッドの俳優が仕事を失う未来を肯定しかねないから、一種のラッダイト運動として、Avatarに対する反対票としてThe Hurt Lockerが選択されたのではないか、と呟いていたのだが、あながちその推測は間違っていなかったようだ。そう思わせるのが、次の映画業界誌The Hollywood Reporterの記事。

Why Oscar didn't embrace 'Avatar'
【The Hollywood Reporter: March 8, 2010】

これによれば、Avatarが選択されなかったのは、どうやら本当に俳優ギルドの受けが悪かったから、ということのようだ。

では、The Hurt Lockerはどうして受賞したのか、というと、この映画がイラク戦争を扱った映画であり、上映する側が最初からアゲンストの風に晒されることを意識して、マーケティングやPRをした結果であった、ということのようだ。

記事中にあるように、"The Iraq War Curse"、つまり「イラク戦争の呪い」を払うために、当初からプレスへの説得活動が必要だった。The Hurt Lockerの配給会社であるSummit Entertainmentは新興の中小配給会社であったため、そもそも上映館の確保のところから映画関係者を説得して回る必要があった。そのための諸活動が回り回って後のアカデミー賞候補に至る評価を得る素地となった。

たとえば、SummitはThe Hurt Lockerの上映をわざと夏にした。秋にはシリアスな物語の映画が目白押しとなるのが予測されたから。また、PR会社の42 Westと契約し、PRの焦点を、映画そのものではなく、監督であるBigelowと脚本家のMark Boalに絞り、彼らの人間性に照準したPRを行った。12月にDVDを配布し、関係者にとにかく映画を見てもらうことを心がけ、「イラク戦争の呪い」を払拭するのに力を入れた。

結果的に、映画関係者が集まるNYやLAでthe Producer's GuildやBroadcast Criticsなどの制作者周りの支持を取り付けることができた。

対してAvatarならびにその配給会社である20世紀Foxは何をしていたのか、という問いが当然ながら浮上する。

そもそも、SF作品はアカデミー賞では劣勢に立たされることが多い。77年のStarWarsはWoody AllenのAnnie Hallにオスカーを取られた。同様に、82年のETはGandhi(ガンジー)に負けた。

こういう前史があるのだから、FoxはAvatarのPRに力を入れてもよかったはずなのだが、実際は、メディアとの接触のほとんどを監督であるJames Cameronに委ねてしまった。そして、Cameronの主張は、どうしてCG映像を評価してもらえないのか、という彼の懸念に集中した。

だが、映画がフルCG化することは長い目で見れば、映画の中で俳優がはたす役割が著しく小さくなる予感をもたらす。俳優の多くはバイプレイヤーであり、従って俳優ギルドから見ればCameronの主張を好ましく受け取ることはできない。将来的に自分たちの仕事がなくなる可能性があるから。そして、こうした懸念は、アカデミー賞投票者の最大クラスターである俳優・女優にアンチAvatarの態度を取らせた。Cameronが得意げに語ったことは、ハリウッドの多くの俳優・女優の顰蹙を買ってしまったわけだ。

ということで、結果的に今回の結果でわかったのは、「ハリウッド関係者の、ハリウッド関係者による、ハリウッド関係者のための映画賞」が、アカデミー賞であり、オスカーであった、ということだ。

文字どおり、フルCG映画がもたらす映画制作の現場からの人間の締め出し予想に対して、ハリウッドの住人がノーと言ったわけだ。

それは裏返すと、イラク戦争の呪いをThe Hurt Lockerが必ずしも払拭し尽くしたことを意味するわけではない。従って、ハリウッド住人がプロパガンダ映画を全面肯定したわけでもない(The Hurt Lockerを未見の段階では、その脚本がわからないため、正直私にはまだ判断ができない。というかコメントができない)。

とはいえ、結果的にThe Hurt Lockerが選択された事実だけは残るので、ハリウッドが戦争プロパガンダを肯定したと取られても仕方ないのでもあるのだが。

もっとも、もともとハリウッドにはデモクラット支持のリベラルが多いことを考えれば、彼ら自身が戦争を全面肯定することはあり得ないといえる。その一方で、戦争を映画のモチーフから完全に閉め出すことも表現の自由の点から自己矛盾となる。だから、一定数の戦争映画はハリウッドで制作される。もちろん、そのいくつかには国防総省のお墨付きが得られる類のプロパガンダ、というか軍人リクルートを訴えるための映画もあることになる。

ということで、今回のアカデミー賞は、予測市場におけるカスケードが起こってしまったと思えばいいのかもしれない。公式にはAvatarの優位は明確だが、しかし、皆がAvatarを支持するなら自分はThe Hurt Lockerを支持してもいいだろう。こんな風に思った投票者が相当数折り、それがカスケード=雪崩現象を起こした。

人が集団で選ぶものは必ずしもその集団の意志を反映するものではない。また、選択は必ず相対的な比較の下でなされる。従って、得られた結果が絶対的な価値を持つことはない。この二点をとりあえず理解しておけばいいのだろう。

作品賞や監督賞を逃したAvatarだが、撮影賞、美術賞、視覚効果賞、の三つは手堅く確保した。映画製作の現場を変えるポテンシャルは正当に評価されたともいえる。

従って、The Hurt Locker受賞の事実よりも、本格的に映画のあり方がコンピュータによって規定される時代の幕が開けられたこと。そのことに対する人間の抵抗は想像以上に大きいこと。このあたりのことを教訓として学んでおくのがよい。

だから、やはり一種のラッダイト運動だったのだ。

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