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March 24, 2010

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Googleの待避をきっかけに香港はITビジネスのオフショアとなるのか。

March 24, 2010

op-ed / commentary


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junichi ikeda

Googleが中国政府の検閲ルールに従わないことを明確にし、その結果、中国市場からは表向き撤退することになった。表向き、と断ったのは、中国人向けのサービスのオペレーションを香港で行うことに決めたからだ。

Google Shuts China Site in Dispute Over Censorship
【New York Times: March 22, 2010】

Google Stops Censoring in China
【Wall Street Journal: March 22, 2010】

Google's Search for Web Freedom
【Wall Street Journal: March 22, 2010】

香港は、1997年にイギリスから中国に返還されたが、返還後50年間、つまり2047年までは「特別行政区」として自治権が認められている。今回のGoogleの決定はその自治権がある香港への待避ということになる。

この決定がGoogleにとって想定内のアクションなのか、それとも苦肉の策なのか、は判断する材料がない。しかし、中国市場から「半歩後退」したに止まるように見える今回の行動は、他のアメリカのIT企業にとっても、あるいは、待避された当の香港にとっても、興味深い結果をもたらすように思える。

今後の動きとしてまず注目されるのは、Googleの動きに呼応してアメリカ国務省がどう対処するのか。Clinton国務長官がfreedom of Internetの確保を国務省の行動原理の一つに据え、しかもそれをアジア外交の主軸に据えようとしている。このことを踏まえれば、国務省が全く動かないということはないだろう。つまり、本件は外交問題として浮上する可能性はかなり高い。

Googleが中国市場からの撤退可能性を公表した際には、同時にハッキングをされていたことも発表している。その後、Googleはアメリカ連邦政府と協力して、cybersecurityの維持に関与すると公表している。実際、そうした動きも始まっている。

U.S. Aims to Bolster Overseas Fight Against Cybercrime
【Wall Street Journal: March 22, 2010】

こういう状勢を踏まえればアメリカ国務省が乗り出す可能性は高い。そして、いったん外交問題となれば、アメリカの他のIT企業にもGoogleと同じ問題が生じる可能性が出てくる。その結果、中国での営業活動について、アメリカ政府と中国政府との間に挟まれ、ジレンマに陥る可能性もあるわけだ。随所で報道されているように、中国市場からの撤退はアメリカ企業にとっても、その企業に投資している投資家たち(大手ファンドや投資銀行)にとっても、非常にリスクの高い決断になる。実際、Googleにとっても、アメリカに次ぐ利用者数を中国では抱えているという。

そこで「半歩後退」を維持できる香港の立場がクローズアップされる。

しばしば指摘されているように、香港は返還前から中国への投資の窓口として機能してきた。イギリス系の香港上海銀行のような銀行が控えることで、欧米資本のみならず華僑資本(台湾資本を含む)が中国に流れ込む際のゲートウェイとして機能してきた。欧米資本のアジアにおける最前線として香港は機能してきた。

香港の中国返還後は将来的な政治体制への懸念から、香港に代わってシンガポールがアジアの金融の中心になる動きが生じている。シンガポールについては最近では日本のファンドや起業家も本社機能をシンガポールに移す動きが出てきているくらいだ。

そうしたシンガポールの躍進に対して、香港が、まさに玉虫色であるが故の立場から、アメリカ企業の中国市場における拠点となる可能性が、今回のGoogleの動きによって浮上してきたのではないだろうか。

今日の金融ビジネスは、一皮むけばその実体はITビジネスだ。企業や人々の銀行口座の維持や送金業務によって基本的な顧客情報も抱えるデータバンク事業でもある。そして、ここに今流行のデータセンタービジネスも関わってくる。

ただし、上で記したCybersecurityの問題は、まさにこうしたデータセンター業務、顧客情報を扱う業務のセキュリティに関わる話。この点でも、金融ビジネスとITビジネスは表裏一体だ。

想像するに、イギリス統治領時代の香港は、東洋(=中国)と西洋(=イギリス)が交叉する不思議な都市だったのだろう。しかも、米ソ冷戦という国際関係の枠組みがある中で、中国とイギリスという、米ソそれぞれの陣営に分けられてもおかしくない立場にある二つの国が交叉する場所としてあった。もちろん、在外華僑のネットワークも関わっていた。そのような東西の文明、文化が交叉する場所で、どちらの論理も習慣も併せのむような、ある種の緩衝地帯として香港はあったのだと想像される。

だとすれば、今回のGoogleの動きによって、香港は欧米系の金融=IT企業の待避場所、一種のアジールのような場所に位置づけられるように思えるし、その一つの帰結として、金融ビジネスにおけるオフショアのように、ITビジネスにとっても複数の文化の系譜に連なるビジネスルールが共存できるような場所として、相当曖昧だが、それゆえ法的問題に対しては寛容な解決策を模索できるような場所として浮上してくるのかもしれない。

以上は、もちろん、未来の一つの姿を空想してみたものに過ぎない。けれども、そうした空想を呼び込んでしまうだけの磁場が香港にはあるように思えるし、その磁場にGoogleが接続するところが、そうした可能的未来の蓋然性を高めてしまっているようにも思える。

今回のGoogleの動きで香港がどうクローズアップされていくのか。シンガポールや他のアジア都市の動向も横目に見ながら、今後の動きに注目していきたい。

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