FERMAT communications visionary

February 10, 2011

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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Tim Wu、FTCのアドバイザーとして連邦政府入りへ

February 10, 2011

op-ed / commentary


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junichi ikeda

net neutralityの提唱者であり、コロンビアロースクール教授のTim Wuが、FTC=連邦取引委員会のアドバイザーに就任することが決定した。

Tim Wu, Creator of the Term ‘Net Neutrality,’ Joins the Federal Government
【New York Times: February 9, 2011】

FTC names net neutrality expert Tim Wu senior adviser
【Washington Post: February 8, 2011】

上のNYTの記事の最後にあるとおり、Wuのtweetで、今後政策の話はしない、とあったのでもしかしたら、政府入りするのかな、と思っていたのだが、まさにそのとおりの展開になった。

FTCは、司法省反トラスト局同様、反トラスト法(日本の独禁法に相当)をカバーする。つまり、ある産業の競争の維持や、その際の目的の一つである消費者保護を専門とした連邦政府機関だ。

Tim WuのFTCでの役割は、"a senior adviser for consumer protection and competition issues that affect the Internet and mobile phones" とあるから、

「インターネッ」トと「モバイル」の領域で「消費者保護」と「競争維持」

において、助言を行う立場になる。

しかも、コロンビア大学のリリースによると、これらの「長期に亘る」有り様を検討するのがWuのミッションのようだ。

ということは、実質、Wuが連邦政府内における、net neutralityの将来像の雛形を描いていく役割を担うことになるのだろう。

Wuは、近著、”The Master Switch"で、ラジオ時代からの、アメリカのメディア産業の独占と競争の繰り返しについてまとめている。また、その観点から、Jonathan Zittrain同様、Appleの独占というか、全てをコントロールしようとする方向にとても強い疑念を示している。net neutralityの提唱からわかるように、Wu自身は基本的には、インターネットの特性である「オープン」を支持する側の人物だ。

FTCの委員長(組織のトップ)のJon Leibowitzによれば、Wuには「消費者保護」「競争」「法」「技術」の交叉する軸を扱ってもらうという。

FTCや司法省反トラスト局は、原告としてある企業を独禁法違反で訴えることができる。その権能を考慮すれば、もしかしたら、近い将来、FTCがAppleに独禁法違反を理由に訴えるような事態が生じるかもしれない。あるいは、そこまでいかなくても、FTC=連邦政府として、iPhoneやiPadのAp Marketについてそのコントロールの強さを減じるようなガイドラインを制定することぐらいは行ってくるように思われる。

実は、私はコロンビア大学の留学時に、Tim Wuの講義を取っていた。当時は、Wuはバージニア大学に所属しコロンビアには客員教授として2ターム(9月から5月)で来ていた。その後、スタンフォードやシカゴでも客員を務めた後に、コロンビアの教授に就任した。

Wuは、台湾人の父とイギリスの母の間でカナダのトロントで生まれた。大学はカナダのMcGill大学で学び、その後ハーバード\ロースクールに進み、そこで、Lessigに出会ったという。この間に、一度、シリコンバレーのIT企業で(確か)マーケティングの担当を行ったこともあったと聞いた。つまり、(インターネットに代表される)テクノロジーに明るいロースクール教授という希少なタイプだった。

コロンビアで私がとった講義はCopyright Lawだったのだが、その中身は、単なるCopyright Lawの条文や判例の検討だけでなく、WuいうところのCommunications Policy=(メディア)コミュニケーション政策に関わるもので、Lessigを始めとしてサイバー法やインターネット法の範囲までを含む興味深いものだった。

だからといって、真面目一辺倒というわけでもなく、講義(そして試験問題!)では、マンガやラッパーを取り上げて、それらをどう法的に扱っていけばいいかというのを学生との間の議論(=ソクラテス・メソッド)を繰り返していた。

また、おそらくは彼の個人的事情(イギリス人と台湾人のハーフで、カナダ出身だがアメリカで教えている)もあってか、コスモポリタン志向が強く、インターネットについては国際的な問題に関心を持ち、主には貿易問題の文脈で捉えていた。また、アメリカのマイノリティ(ロースクールではやはり黒人やヒスパニックは相対的には少ない)や留学生にもできるだけ公平な条件を与えようと務めていた。Wuという名前と、見た目は間違いなくアジア系であることも、こうした行動にも影響を与えていたように思う。

なにはともあれ、留学時代にとても印象に残った先生の一人であったことは間違いない。

そのWuがFTCに入るというのは、個人的にはとても喜ばしい感じがする。
(アメリカ人なら、面と向かったら、I'm SO proud of YOU! とでもいうところw)。

Wuは、2008年の大統領選では早い時期からオバマ候補の支持を表明していたから、デモクラット支持の人物と思っていいだろう。今回のFTC入りもその延長線上にあると思う。

とはいえ、昔ながらの教条的なデモクラットかというとおそらくはそうではなく、もっと現実的な解を模索する人だと思う。現実的、というのは、インターネット技術の発展の可能性や、インターネット自身がイノベーションの苗床になることも踏まえての、制度設計を志向する、ということだ。

さしあたっては、先日、FCCが発表したnet neutralityのルールについて見直すところから着手するのかもしれない。Wu自身は、モバイル分野におけるnet neutralityの不徹底に不満を述べていたと思う。先述のAppleに対する態度とともに、直近では、スマートフォンやタブレットと呼ばれる分野でどのような振る舞いをするか、が気になるところ。

あわせて、ソーシャルの分野では、いわゆるプライバシー問題も扱うことになると思う。FTCはここのところ、ずっとこの問題に従事していたからだ。その意味では、Wuのアドバイザリー入りをきっかけに、彼の議論サークルの中にいる他の学者たち、たとえば、Zittrainなどが具体的に政策の現場にも影響を及ぼすようになるのかもしれない。

おりしも、長らくサイバー法の牽引役を引き受けてきたLessigがサイバー法よりも政府腐敗の方へと研究対象を移した時でもある。ちょうど、JobsやSchmidtの後景化に伴い、ウェブ企業の経営者が世代交代をし若返りの基調にあるのと同じように、政府のブレインも世代交代を図ろうとしているのかもしれない。

こうなった時のアメリカの変化は早い。2010年代はこんなところでもスタートしている。

それにしても、HuffPoのアリアナがギリシア出身であるのと同じように、カナダ出身のWuがアメリカの政策の中核で活躍することになる。この偶然の一致から、出生地を問わない登用という点にこそアメリカ社会の底力があるように感じるのは、考えすぎなのだろうか。

とにかく、2011年早々、いろいろな点で面白いことになってきた。

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