劇場化するFacebook

March 09, 2011

op-ed / commentary


author
junichi ikeda

Warner Brothers がFacebook上で映画配信を行うと発表した。

Warner Bros. to Offer Movie Through Facebook
【Wall Street Journal: March 8, 2011】

Warner Tests Renting Film on Facebook for Web Cash
【New York Times: March 8, 2011】

Meet Your New Media Company: Facebook
【AdAgeDigital: March 8, 2011】

とりあえずは、バットマンシリーズの"The Dark Knight"のみを提供。"The Dark Knight"が選ばれたのは、Facebookユーザーの間で人気があるから。レンタルは、3ドル、もしくは 30 Facebook Credits で48時間のアクセス権を売る形での提供。将来的な競合はHuluやNetFlixといわれるが、現時点ではトライアルに過ぎない。Facebookが、現段階では、ビデオ視聴で6番目の利用数を誇るサイトとなっていることがポイントのようだ。

切実さという点では、Warnerの方が上だろう。というのも、過去10年ほど、売上に貢献してきたDVDの販売が今、どんどん落ちているからだ。ユーザーがオンラインに向かっているため、そことどう関わるか、がハリウッドメジャーの悩みどころとなっている。

なにしろ、既に映画興行だけでは収益は得られず、多くは、DVDの売上(レンタル、セル)と、海外収入だったからだ。その両方がオンラインの影響を受けている。

加えて、従来は、DVD→ブルーレイ、のようなより高い映像技術への乗り換えが、将来収益の期待に繋がり、株価にオプション価値を与える要素があったわけだが、ブルーレイが、景気後退の影響もあってか、想定したようには伸びていない、ということも影響している。

ちなみに、ハリウッドが3D視聴に拘るのも、おそらくは、これが技術開発起源のもので、とにかく将来化けるかもしれない、という期待、というか、見込みをする人が投資家側に生まれることを期待してのことだと思う。制御可能な範囲で将来の不確実性を増すことは、今日、イノベーションという言葉によって、さしあたっては肯定される、というか、否定されない、状況にあるからだ。

いずれにせよ、「新たな試み」は重要になる。オンラインについては、Time WarnerはAOLを完全に切り離したので、どこかパートナーを見つけざるを得ず、それがFacebookだった、ということのようだ。

とはいえ、気になるのは、Facebook Creditsを利用しての支払いの部分。

今のところ、Facebook Creditsは、ソーシャルゲーム内のデジタルグッズ購入用に、プリペイドカードで販売されている(しかもギフト用として)。時々、日本でもTSUTAYAや、Wal-Mart系のスーパーで、iTunesの購入用のギフトカードが売っていたりするが、あれと同じことだ。

もちろん、Facebookは今のところ、物販業に力を入れているわけではないから、Facebook Creditsを利用しての購入の3割を手数料として抜くところが実利的なところだろう。

だが、もしも、首尾よく、Facebook上で様々なもの(デジタルもフィジカルも)が売買されるようになると、Facebook Creditsも一種の疑似通貨のようになりうる。いわゆる「ポイント制」における「ポイント」として利用されることもありえる。そうなると、たとえば、今日、家電量販店でハードウェアを買って貯まったポイントで、値引きされたDVDを買うようなことが、Facebook上で起こることも考えられる。つまり、広い意味で、ワーナーの映画のようなエンタメコンテントが、Facebookという街の活性化を通じて提供されるコンテントのようなものになりうる。デジタルメディアに取ってのエコシステムとしてFacebookが位置づけられるということだ。

この他にもう一つ気になるのは、いまのところ、利用はアメリカ国内のユーザーに限られるが、Facebookの世界的広がりを考えれば、そのようハリウッドコンテントの提供が、アメリカ以外の国で利用する人に誘引にもなるのではないかと思う。

今のところ、Huluには、アクセス制限があるけど、リアルタイムで見られるなら、たとえばアメリカの映画やドラマにお金を払っても見る層は世界中には確実に存在すると思う。一種のペイテレビのプラットフォームとしてFacebookを位置づける。しかも、支払いは、さしあたっては為替を気にしなくて済むFacebook Creditsを使って、ということもあり得る。

端的に、このワールドワイドにウェブが広がった時代に、世界同時公開でない映画の慣習を時代遅れのものと思っている人たちも世界中に入るだろう。従来は、そのような声は、リージョンや国単位の配給会社(多くはその地域内の企業との合弁)の都合から難しかったわけだが、Facebookのようなグローバルなソーシャル・ネットワークは、そのような世界中のユーザーの声=要望を集約させることも可能だ。そして、そのようなデータに基づく「事実」が明らかになった場合、企業の判断も、その事実に基づいて行われる可能性が高くなる。

ということで、今は小さな動きだが、それこそ「可能性」としては、映像コンテントの国際的な流通形態の変容に繋がるような動きだと捉えることも出来るだろう。

もちろん、こうした見立てそのものを第三者が提出すること自体が、Time Warner全体の株価上昇につながる、という点で、Warnerの本当の狙いかもしれないが。

ちなみに、この報道の後、NetFlixの株価は下がったということだ。