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March 21, 2011

op-ed / commentary


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junichi ikeda

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日本の危機で試されるグローバルサプライチェーンの弾力性

March 21, 2011

op-ed / commentary


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junichi ikeda

震災と原発危機による日本の生産性の低下が、ハイテク部品の供給を滞らせることで、国際的なサプライチェーンマネジメントを混乱させている。改めて、システムとしての弾力性=resiliencyがマネジメントの課題として浮上している。

Now, a Weak Link in the Global Supply Chain
【Bloomberg BusinessWeek: March 17, 2011】

2000年代半ばから、消費者に直接アピールする耐久消費財の分野では、日本メーカーのビジビリティは下がったように受け止められてきたが、その反面、ハイテク部品の供給においては競争力を確保していっていた。つまり、国外のメーカーの製品を構成する部品の枢要な部分を日本製品が占めることが増えてきた。

その結果、今回の震災による、そのような部品の供給力の低下が、世界中の耐久消費財を中心とするメーカーの業績にも影響を与えている。そのような、グローバルサプライチェーンの危機のマネジメントについてNYTがHPやAppleの取材を引きながら検討している。

Stress Test for the Global Supply Chain
【New York Times: March 19, 2011】

この記事では今回の震災・原発危機によって懸念される供給力の低下について、situation roomやemergency roomという表現を使いながら、状況への対処が喫緊であることを伝えている。

ちなみに、situation room とは、状況(平時は危機、有事は戦況)をモニターしながら対策を随時練っていく司令室のこと。emergency room とはいうまでもなく緊急治療室ということ。

特に、emergency roomという比喩が使われるのは、今日のサプライチェーンは、リーンなjust-in-time system(カンバン方式)を全面的に採用しているため、身体と同じ、生物学的な複雑系となっていると捉えられているからだ。

そのイメージから逆に、グローバルサプライチェーンの管理目標がresilient=弾力的であることの回復というところに置かれている。

このNYTの記事では、最終的な対策として、第一に、畳長性(redundancy)を組みこんだシステムのバックアッププランを予め用意することが指摘されている。

そして、第二には、かつてトヨタがアイシン精機の供給力の低下に対して短期間(二日間)で行った供給体制の組み直しに言及している。後者については、記事中で発言を引用されているMITの教授のように、グローバルサプライチェーンのいわば具体的患部において自発的な修正が起こることに期待するし、期待してもよいという見方なのだと思う。もちろん、それだけの弾力性が日本の製造業とそれを支える環境には備わっているというのが件のMIT教授のもつ信頼なのだろうが。日本側としてはそれが試されていることにある。

第一の畳長性の確保については、サプライチェーンに限らず、一般的にシステム設計を行うときに加味されるもので、たとえば、よく引かれる例としては、かつて打ち上げ直後に空中分解してしまったスペースシャトルのチャレンジャー号の事例がある。

チャレンジャーの爆発については、当時、予算削減もあってNASAが従来採用されていた二系統の独立したチェック機構を一本化してしまったためだからだと言われている。もちろん、予算の増額のためにそう言っているという批判もあるが、そのような批判とは別に、畳長性を確保することで、危機に対するシステムの弾力性を確保する、というのはバックアッププランとしては妥当なものだ。

となると、その弾力性をどの程度確保するか、あるいはどうやったら確保できるかという方向に知恵の矛先が向かうことになるとおもう。

というのも、リーンなサプライチェーンは、在庫管理的には合理的だし、キャッシュ・フローの管理の上でもまっとうというのが、情報技術登場以後の、概ね過去20年ほどの傾向だったからだ。だから、その経営者ならびに経営スタッフに行き渡った考え方を改めて書きなおさなければならないのかもしれない。

問題は、多分、グローバルサプライチェーンの定着によって、フローが当たり前になった製造業のシステムをどうマネージしていくのか、ということで、これには、おそらくは、先行してグローバル化した金融市場への対処方法が、まずは参考になるのだと思う。

つまり、金融業においてグローバルな連鎖倒産を回避するために、銀行のBIS規制で、自己資本比率、というのがあるけど、行き過ぎたリーン・システムのバックアッププランとして同じ発想で言えば、在庫保持率、という概念もでてくるのかもしれない。そうして、金融のフローと同じように、製造業の供給フローが止まらないように、滞らないようにすることを、それこそグローバルな目標とする。今回の日本の危機は、このようなグローバルサプライチェーンの設計方法にも再考を迫っているのだと思う。

たとえば、つい先日の歴史的高値をつけた円高ドル安の、通貨パニックについては、G7の協調介入によって「鎮め」られた。このような協調に近いものが、システムの畳長性の確保のために製造業にも求められるのかもしれない。金融の国際化に伴うバックアップ体制に近いものを、情報化しサプライチェーン化したグローバル製造業に対しても適用の仕方を考案するタイミングなのかもしれない。

それは、リーマンショックの直後、Too Big to Failという発想がウォール街の銀行群には当たり前のごとく適用されたのに対して、GMやクライスラーなどの自動車メーカーの救済にアメリカ連邦政府が乗り出そうとした時に議論が噴出したこととおそらくは同じ根を持つ課題なのだと思う。

つまり、本質的にフローである金融業で常識化した対応策を、どの程度、製造業にも当てはめられるものなのか。それは、同時に、どの程度、製造業がフロー化してしまっているのか、ということの理解をも求めるものなのかもしれない。

いずれにせよ、今回の危機は、海外の報道対応(テーマや論調)を見ることで、この20年ほど、日本がどのようなイメージで捉えられてきたか、を知るのによい機会になるのだろう。その意味で、このグローバルサプライチェーンの件も捉えるのが適切なのだと思う。

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