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ユニクロのR&D、Fast Fashion、次のFast X

ユニクロ60周年セールというメールが届いた。60周年というのはいくらなんでも長いように思ったので、ユニクロのサイトにアクセスしてみた。思った通り、60周年というのは、ファーストリテーリングの前進からのカウント。今私たちがユニクロと聞いてイメージするような店舗は、おおよそこの10年で築かれたもの。

つまり、インターネットが当たり前になったり、(先日発表があったように)日本経済がデフレ傾向であったり、その裏返しとして、多数の商品が日本へ流れてくるようになった、そのような時代にユニクロは存在感を増し、業績を伸ばしていったことになる。

何となく面白くなったので、そのままユニクロのサイトを眺めていたら、興味深いページにたどり着いた。

それは、R&Dについてのサイト。

R&Dセンターという組織を東京とNYに設置し、「世界的なトレンド、ニーズ、ライフスタイル、素材などの最新情報を収拾」し、「集まった情報をもとにシーズンごとのコンセプトを決定し、各国のマーケットに合わせた商品の構成・編集をして」いるという。

興味深いと思ったのは、これが、従来からあるR&Dイメージとはかなり異なるところ。

従来からあるR&Dのイメージは、もっぱら技術開発。つまり、ユニクロのように衣料品を販売しているケースであれば、その素材である繊維の開発や縫製技術の開発、のようなもの。だが、こうした部分は、ユニクロの場合は、外部の繊維メーカー等が担っている。大当たりしたヒートテックの場合であれば、その化学繊維は、東レが技術開発し製造している。

だから、上のR&Dセンターで行っていることは、感覚的にはR&Dというよりも「マーケティング情報分析」に近い。あるいは、R&Dという表現にこだわるならば、Business Knowledge Developmentとでもいうべきもの。

つまり、ユーザーによる商品の購買・利用の傾向を把握し、それらを情報(Knowledge)にまで加工し、それらを協力者(主に川上のベンダー)に商品開発の方向性として伝え、次の商品を開発していく。

こんな繊維素材があれば、あるいは、こんな縫製技術があれば、あるいは、こんな染色技術があれば、・・・、ユーザーはきっとその商品を購入するに違いないから、商品化にゴーを出しますよ、ということなのだろう。

本質的な意味で自社の中に製造技術、素材技術の開発スタッフは抱えない。その代わり、自分たちは、顧客の要望を吸い上げる、あるいは、顧客の要望(欲望)を水路づけるような雰囲気の提案を先行して行っていく。あるいは、ネット販売を利用することで、顧客の購買結果をデータ分析する。

つまり、とにかく顧客のことを知り、顧客を先導するためのノウハウを構想する、ことが、ユニクロの「研究開発=R&D」であるわけだ。

そして、これは、ユニクロだけではなく、Fast Fashionと呼ばれる分野でのR&Dのありかたでもある。同業他社としては、ZalaやH&M。直接の競合は、各地での路面店の並びを見ればわかるようにGAP。

世界の主要都市で出店し、自社ブランドとしてカジュアルファッションを供給する。直接の商品製造は、中国などの業者に生産委託し、もっぱら、それら衣料品の大量販売を行う。

いうまでもなく、Fast FashionはFast Foodに範をとった呼称。Fast Foodの世界的リーディングカンパニーといえばマクドナルドなわけだが、飲食と違って服飾の場合は、事前に商品は完成されている。そのため、ファストフード店のように、店内で食事ができる、というようなサービスを提供する必要もない。店舗は商品を買う場所に過ぎない。むしろ、品揃え(マーチャンダイジング)にどこまで力を注げるのか、しかも、セレクトショップと異なり、基本的には全品自社ブランドであるため、スケールメリットを享受できる体制にしなければならない。

だから、どちらかというとマクドナルドというよりもIKEAに近い。

ただし、服飾の世界は参入が容易なので競争は激しい。素材調達や縫製加工を自社内に持たない分、他者も同種の資源を獲得することは可能。その分、とにかく「ユーザーに実際に買ってもらえる」、販売力、営業力、が会社の中核資源になる。

流れ的には、「流通革新」や「製販同盟」といわれていたものに近いが、それらと異なるのは、

自社商品としての販売 (ブランド認知を最大に)
世界中での販売 (スケールメリットを最大に)

の二点。

一般の流通(たとえば家電量販店やドラッグストア)が、とにかく売ることに集中するのに対して、Fast Fashionはあくまでも、商品開発×販売、の二本立て。それらが不即不離となっている。もちろん、スーパーのような業態でもプライベートブランドを随時開発するものの、それらは一般ブランドを駆逐しない範囲にとどまる。それに対して、Fast Fashionは、全品自社のプライベートブランドで揃えるわけで、これは、かなりのリスクを伴う。

そのため、世界中の販売、というように、徹底的なスケールメリットの追求を心がけなければならない。大量に多品種を調達する。そして、大量多品種の商品を一定期間で売り切るように、実際にはプライシングを徹底的にコントロールする。最初に言及した60周年メールのように、メールや値引き、ポイント、などのフック要因を多数用意して、その都度に購買意欲を「着火」させるように工夫する。

大量多品種の商品の調達にしても、大量多品種の商品の販売にしても、インターネットに代表される情報技術を最大限駆使して、本質的に自転車操業のビジネスを駆動させていく。

世界中を商品が高速で駆け抜けていくわけで、その様子はちょっと目をつむれば金融情報が流れていくのと変わらない(というか、会計情報だけに注目すれば、文字どおり、衣料が通貨みたいなものになる)。

そうした様が「FAST」なわけだ。

地球上の全ての場所が事業のフィールドで、化繊のような高度技術を要する繊維の開発は技術力のあるメーカーに頼み、その縫製はロジスティックスを考え委託先を考える。店舗は、消費購買力のある世界中の都市部にまず直営店を出店する。そこで、ブランド認知が進めば、各地のモールに出店する。出店の速度をフレキシブルにするために、現地の大手デベロッパーとも協力関係を築く。もちろん、ブランド認知はマストなので、世界で流通性の高い媒体を利用してイメージ向上に努める。実際の販売の刈り込みには、顧客の持つ情報端末を最大限活用する。

もしも、ユニクロが今後も世界市場でサバイブしていくとすれば、多分、その要因の一つとして、上の最後で記述した、顧客へのITを使ったアプローチの経験、というのが挙げられるように思っている。

つまり、顧客とITを使ってコミュニケートする、顧客をITを使ってプッシュする、ことが日本では当たり前であり、その状況を自ら一消費者として経験したスタッフが多数ユニクロで働いていること。彼ら・彼女らの一人一人が、そうした「プッシュ」の仕方を経験しているため、その可能性についていくらでもアイデア出しをすることができる。

服飾の世界は華やかな世界なので、成功要因としては商品開発力が絶対的に重視される。それは、そうした商品開発力のためのいわば「諜報活動」がR&Dとして紹介されてしまうことからもわかる。

けれども、Fast Fashionという事業の性格を考えれば、用意した在庫をさばく手練手管こそが、強みの両輪の一つのはずだから。

*

このユニクロの動きをもう少し引き延ばしてみよう。

つまり、Fast Fashionが、グローバル化とIT化の交叉するところで生まれたビジネス形態であるならば「次のFast X」は何か、ということ。

そう思って考え直してみると、まずソフトウェアというのはFastだ。なぜなら、インターネット自体がFast化のためのインフラのようなものだから。

だから、Fast Applicationがまず考えられる。

最近流行の、App Store系のApp Economyなんてのもこの部類だ。

もっとも、むしろ、“Fast Business”の各種特徴が、ソフトウェアの比喩から発生していたりする。ベータ版のように、最終バージョンの前のテストマーケティングや、逆に、バージョンアップにような同一系列商品の機能向上、というような開発方向性は、リアルの商品の開発発想にも浸透している。

(たとえば、今年のヒートテックは、女性は保湿性効果を、男性は発汗効果を、とあった。これは、明らかに、小さな機能アップをむしろユーザーオリエンテッドな姿勢として示している)。

App Economyの影響もあって、この次は、 “Fast Gadget”、つまり、「ガジェットのFast Appliance化」と呼べるような動きが本格化するように思える。

ユニクロのイメージで考えれば、Mac Shopを持っているAppleが一番近いイメージ。

Macがパソコンとしては周縁化していく中、ある意味やむなく始めたショップが、その後の、iPodやiPhoneの流れの中で、自社商品のイメージを際だたせるために役に立った。家電量販店の中では埋もれてしまう商品が、自社店舗を通じて一つのイメージに昇華させることができた。

販売の効率化を考えたら巨大量販店に頼むのが常道だったときに、自社店舗を構えていくのは当然リスクがあったわけだが、“Fast Biz化”の中でのポイントの一つが、広汎なユーザーによる認知、であることを考えれば、徹底的に我が道を歩む姿勢が、iPod、iPhoneのラインで花開いたことになる。

iPhoneが先鞭をつけた、Smartphoneと呼ばれる分野は、いわば「Fast化を支える世界的な生産・分業体制」の中で商品が企画開発されているので、だから、次には、NokiaやSamsung、がFast Bizとして、自社店舗展開をしていく可能性はある。

もちろん、iPhoneの段階では、Phoneなので、必然的に世界中の携帯キャリアの店舗での販売が必要になる。たとえば、今、ソフトバンクのショップにいくと、ほとんどAppleの販売代理店のようにiPhoneのことが説明される。おもしろいのは、iPhoneのバージョンアップのタイミングと、ソフトバンクの契約期間が微妙に合わなかったりするところで、このあたりは、Appleがユーザーによる指名買いを志向していることの現れでもある。

今は3Gが必要なのでキャリアの店舗での販売が必要になるが、iPhoneにしてもAndroid Phoneにしても、3GとWi-Fiがデュアルで接続可能になっている。であれば、今後のネットワークの有り様によっては、3GよりもWi-Fiに軸足が動いて、PCや一般的なガジェットのメーカーや販売店の中から、ユニクロが衣料品業界・服飾業界で行ったようなことを、IT業界で行うような企業が現れてくるのかもしれない。

つまり、ユーザーの利用意向の吸い上げとユーザーの欲望の水路付けの両方を担う、企画開発×販売力をもつ会社が登場するのかもしれない。もちろん、そのためには、衣料品並みに、生産体制が過剰な状態になって、販売力のある川下企業の方に、ユーザーの利用意向の代弁という錦の御旗が移ることが必要なわけだが。

けれども、先進国経済の成熟化や、G20体制への移行は、ある意味、産業の多くの領域で過剰生産能力が当たり前になる時代を含意しているはずだから、上述のような自体はそう遠くない将来に起こりそうに思う

イメージとしては、iidaのようなデザイン携帯が一発ネタで終わることなく、販売力を伴う企画会社としてショップ展開していくイメージだ。

ただし、ガラパゴス化の縮み志向の中で、こうした会社は日本からではなく、韓国や中国、インドあたりから生まれそうな気がする。イメージとしては、Samsungあたりが、ユニクロ×IKEA×Apple、のような店舗を展開するような感じ。

いずれにしても、Fast Biz化は、今後は随所で起こることになる。

そう思うと、ユニクロの定義する“R&D”能力からは、逆転の発想としていろいろと学べることが多いように思う。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。