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Jared Cohen とThink/Do Tank としてのGoogle Ideas

アメリカの国務省職員だったJared Cohenが国務省を去り、GoogleでGoogle Ideasという“Think/Do Tank”を始めるという。

State Department Innovator Goes to Google
【Foreign Policy: September 7, 2010】

Jared Cohenは、昨年のイランの選挙の時のTwitter報道に関わり注目を集めた。Twitterフォロワーも30万人を超える。かねてから、国際問題、外交問題におけるSocial Media活用のアイデアマンとして注目を集めていた。その彼が国務省を去り、民間で活動をする。

Think/Do Tank というのは彼の造語で、プランニングするだけでなく実際に行動も起こすもの。その意味は、いろいろと今回の報道を見ると、政府、企業、NPO/NGOの間でネットワークを形成することで考案したことを実行に移すというもののようだ。

ただ、彼がSocial Mediaに注目している、ということを素直に捉えれば、むしろ、Twitterに代表されるSocial Mediaを活用することで、つまり、多くの人々を瞬時に接続できるコミュニケーション能力を活用することで、政治的影響力、社会的影響力、外交的影響力を行使しようとする、という点にこそ関心を寄せるほうが、現代的な意味をよりクリアにすることができるのではないだろうか。

しばしば、外交は平時における儀礼的な国家間の関係の形成と維持に焦点が当てられる。そして、一旦、有事になると軍事力の行使という最終手段が交渉の切り札となる。したがって、アメリカの場合であれば、国務省(外交担当)と国防総省(米軍監督・指揮担当)の間での組織的対立が目立つことになる。あるいは、軍事力の行使に至らずとも、経済制裁を行使することもあるが、この場合はその行使が民間企業の理解や協力が不可欠となるため、これも国務省単体では対応することが難しい。実際には多くの関係部門の協力が必要だし、当たり前ながら、議会による理解あるいは立法措置が必要で、これには政治過程として多大なコストがかかる。

このように国務省が扱う対象が外交や国際関係であるだけにしばしば「考える」ことと「実行する」ことの間にギャップがあった。そのギャップの一部がウェブの登場、より具体的にはSocial Mediaの登場によって埋められた、あるいは、埋められるはずだ、というのがCohenの考えるところではないだろうから。

つまり、Social Mediaによる「コミュニケーション伝播力」によって、そのコミュニケーションを受けた人々が瞬時にして同調的態度を取ることができる、少なくともできると信じることができることが、軍事力や経済制裁力と同じように、人々の行動に影響を与える「力」になる、ということだ。Think/DoのDoの部分は、こうしたコミュニケーション機能の実施の部分を具体的には指すと考えたほうがいいと思う。そして、そのコミュニケーション内容を受け取り、時にそれに反応を返す人々の所属する組織が、政府や企業やNPO/NGO、ということなのだと思う。

要するに、人々の「認識のフレーム」に影響を与え、変更を加えさせることがDoの中心的役割ということになる。これは、従来であれば、政府でも企業でもシンクタンクでも、Public Relationsとして展開されてきたものであるが、それをより機動的に組織することを目指すことになる。

(ちなみに、日本ではPublic RelationsはPRと略され、新商品紹介や企業不祥事などのリリースの発表や、あるいは、マスメディアの番組や記事内で取り上げられる無料広告=パブ、ぐらいにとられがちだが、アメリカの場合は、マスメディア間で「見解」の対立がしばしば起こるため、その対立を逆手にとってより根本的なメッセージを第三者の間で展開させるところまでが範囲になる。その意味でとてもゲーム性、競技性の高い活動といえる。)

CohenはGoogle Ideasに参加すると同時に、CFRのメンバーにもなったということなので、Social Mediaを通じた具体的なコミュニケーション先にCFRに集うメンバーが加わることになるのだろう。CFR=Council on Foreign Relations(「外交評議会」と訳される)は、民間の外交関係について考えるNPOで、雑誌Foreign Affairsを発行している。本部がNYにあり、しばしばアメリカ国内外の要人(政府高官、大手企業エグゼクティブ、著名な学者、ジャーナリスト等)を集めてシンポジウムを開催するなどして、広範な人的ネットワークを築いている。そのネットワークを活用することになるのだろう。Google Ideasも本部はNYに置かれるようだ。

ちなみにCohenはローズ奨学生でもあったということなので、アメリカの政治や外交関係では重要なイギリスとの関係も既に築いているということになる。この点でも、彼とGoogle Ideasの動きは注目に値する。ローズ奨学金にしてもCFRにしても20世紀前半にできた人的ネットワークのインフラで、もちろん、それは20世紀後半に一定の役割と機能を果たしてきた(たとえば、ビル・クリントン元アメリカ大統領もローズ奨学生だった。彼の国際活動組織であるCGIはもっぱら彼が大統領時代に築いた人的関係に根ざしていると言われるし、実際そうなのだろうが、それ以前にローズ奨学生としてのつながりもあったと捉えておくべきだろう)。

その20世紀のインフラを、CohenとGoogle Ideasが21世紀の現実と(技術などの)資源に根ざしたものに組み替えていくのかもしれない。Cohenは上のFPのインタビューで国務省時代に所属していたPolicy Planning部門が、ちょうどVenture Capitalがビジネスに対して行うように、新しいアイデアを実現させるための資源を見つけそれらを組織していく方向に変わりつつあると応えている。同じようなことを彼の裁量が発揮できるGoogle Ideasで行われるものと期待できるだろう。基本的には、従来交流のなかった要素を接続(短絡)させることで新たな何かが生まれる、ケミストリーが生じるとCohenは信じているように思えるので。

Jared CohenとGoogle Ideasの今後の動きについては注目していきたい。

*

(追記)

Cohenは81年生まれのユダヤ系。
たとえば、ここで彼が具体的に話す姿を見ることができる。巻き毛の栗毛でものすごい勢いで話す。留学中にこういうユダヤ系の同窓生がいたことを思い出した。

よく考えてみれば、ユダヤ系の彼がイスラム圏を旅してアメリカの若者もイスラム圏の若者も変わらないとレポートするわけだから、ある意味、典型的にユダヤ系的なコスモポリタニズムを持った人物なのだろうなと、上の番組のトークを聞きながら感じた。CFRが彼を招聘するのもよく理解できる。Cohenは人物としてもとても興味深いと思えてきた。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。