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ジュリアン・アサンジとインフォ・ヘイブンの可能性

WikiLeaksの中核人物として世界中の注目を集めたジュリアン・アサンジが祖国オーストラリアで、上院議員に出馬する動きがあるらしい。

Media report: Assange seeking Australian senate seat as a defense against criminal prosecution
【Washington Post: February 18, 2013】

上院選の出馬自体は、議員になることによって現在、アメリカの司法省(要するにFBI)I)から刑事事件として立件されようとしている事態を避けようとしているからだという。

つまり、一国の議員を他国の司法当局が拘束する動きに変え、外交問題化させる可能性を匂わせることで、身辺調査活動そのものから米司法省を退かせようとする見通しらしい。なんというか、大元の訴追の意志そのものをなくさせる戦略、つまり、一種の「無効化策」であるところが、とてもハッカーらしい発想のように思える。ある力に対して、その力の行使者の意図を挫くという発想が。アサンジを追い詰めるという「ゲーム」のステージを書き換えることで、事態を異なる相貌の下に置いてしまおうとする発想自体が。

もちろん、立候補だけではだめで、当選して文字通り上院議員になって初めて有効になる目論見であるため、いまだ絵に描いた餅でしかないわけだが。

こうした試みが可能なのは、どうやら国外居住者でも国政に選挙される側として参加可能であるからのようだ。記事中にあるのだが、国外居住者でも、オーストラリアから離れてから3年以内で、かつ、向こう6年以内に国に戻るのであればよいようで。詳細を知らずに書くのは拙速かもしれないが、こうした制度は国民が国外に出ることが当然と思われている環境にあるからなのかもしれない。オーストラリアも所属する英連邦(コモンウェルス)の諸国、たとえば、イギリスやアメリカ、カナダあたりでキャリアアップを図るために留学・就職する人達もいるだろう(身近なところでは、たとえば、ハリウッド俳優にオーストラリア出身の人を見かける)。このように理由があって国外に行った人たちがいつかは帰ってくることを期待しての制度のように思えてくる。単純に一種の出稼ぎのように、国外で得た資産を国内に移転するということもあるだろうが、それ以上に(これは既に中国やインドで顕著だが)国外での学習や経験から得られた「知恵」や「知識」を持ち帰ってくれることも期待しているのだろう。そう考えると、情報の自由な移動には、人の自由な移動も重要な条件の一つではないかと思えてくる。

こうした環境下で、今回のアサンジの動きで興味深いところは、そのような選挙活動を行うことで、アサンジの振る舞いや考えが、改めて広く広報されることになると思われるところだ。実際、上の記事によれば、彼は、the WikiLeaks Partyという党を作り、出馬するらしい。つまり、党の綱領がWikiLeaks的なものを中心に構成されると考えてよいのだろう。欧州におけるPirate Partyのようなものとして、「情報と社会のあり方」を主軸にした見方を主張する核の一つになるのかもしれない。

そこから先に夢想してしまうのは、タックス・ヘイブンならぬインフォ・ヘイブンが登場する可能性もあるのでは?ということだ。ここで、インフォ・ヘイブンというのは、各種の情報に対する法的制約から解放れた場所、ということだ。ちょうど、タックス・ヘイブンが、税制上のパラダイスとして設定され、世界中の資産がそこで計上されているのと同じように、インフォ・ヘイブンには、様々な情報に関する制約を越えたものとして位置づけられる、と考える。

そして、その中核の一つに、アサンジの母国のオーストリアが候補となるのであれば興味深い。アングロサクソン系の植民地としてはもともと流刑地としてスタートしたという歴史もあるし、空間的には、南半球にある大陸で、シンガポールを始めとする東南アジアの隣国でもある。

情報をめぐる制度については、自由な海、という言葉のように、今までであれば公海という法域外の場所を通じて考えられた。物語的に言えば、ある国で法を犯したものが、他国に逃亡するのは、スパイものの常道だ(そもそも諜報行為がボーダーライン上にあるわけだし)。ギークやハッカーは、見方によっては、所属政府のないフリーのスパイのようなものだから、法域=国を転々とすることで逃げ隠れることもあるのだろう。アサンジの振る舞いもそうしたことであったわけだし。

これは、前にアーロン・シュワルツの自殺の際にも触れたことだが、WikiLeaksのようにある国の政府にとって都合の悪い情報を流すものは、当該国に敵対ないし対峙する政府からの支援を受けることが可能だと考えられ、そこから逃走経路を確保することもできるのだろう。たとえば、アーロン・シュワルツのケースも、彼の行なっていることがわかりやすく政治的なことであれば、彼の逃走を手引きする人たちが現れたのもしれない。つまり、罪や社会的制裁を規定するのが法である以上、その法域とは異なる地域に出向けば、罪も罪でなくなる可能性がある(もちろん、司法当局はそのような逃亡を阻止するため、国を越えて共同調査を行うこともあるのだろうが。これもスパイものの常道)。

アーロンとアサンジの扱い(もしくは、本人の振る舞い)の違いにも、情報と法の関係における、国際関係と日常生活のようなレベルの違いを感じる。だから、もしも、アサンジの出来事が発端になって、たとえばオーストラリアがインフォ・ヘイブンになっていれば、アーロンが政治亡命する、というような話もあったかのかもしれない。欧州であれば、スイスやオランダが示している情報の利用に関する寛大さと似たようなことがアジア太平洋で起こるとしたら面白い。スイスはプライベートバンキングの本家の一つであるし、オランダは(スイスとともに)プロテスタントを擁護する国として、個人の自由を重視し続けている(もちろん、無秩序というわけでなく、独自の社会秩序を保っている)。

アサンジやアーロンの事件は、情報と社会を巡る動きを活性化させたものとして、後年、歴史的に位置づけられるものなのかもしれない。

それにしても、インフォ・ヘイブン。

どこかで生まれないものだろうか。
いや、もしかしたらもう既にあるのだろうか。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。