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Moonshot Thinkingで攻勢に転じるGoogle

ここしばらくの間、AppleやFacebook、あるいはAmazonに押され気味で、どちらかというと彼らのフォロワー的側面を見せてきたGoogleだが、今年に入ってから勢いを取り戻してきているようにみえる。端的に株価が好調を示していて、ここのところ、800ドル前後を推移している。

Google Joins the $800 Club; Number Four, for the Record
【Wall Street Journal: February 19, 2013】

ジョブズ亡き後のAppleで、業績が好調なうちに利益を配当として株主に還元せよという株主の声が高まっているのとは好対照だ。なかには、Googleの株価が1000ドルを超えると予想するものも出てきている。

Google Shares to $1,000? Two Analysts Say Yes
【Wall Street Journal: February 21, 2013】

サーチが堅調なことに加えて、長らく懸案事項だった反トラスト法訴訟の可能性がFTCとの合意で解消されたこと、つまり、リーガルリスクが軽減したことが挙げられる。その上で、Google Glassや無人運転自動車のような新たな試みを示し、将来性というオプション価値を増している。

特に、Glassについては、一般から有料のベータテスターを8000人募集し、彼らを通じて開発を具体的に進める。もちろん、1500ドルというお金を払ってでも利用してみたいというユーザーには、実際に商品を市場投入した際にGoogleを応援するエヴァジェリストとして各種ソーシャルメディアで「普及活動」をしてくれることも期待しているのだろう。このあたりは、最初期のAppleの動きに似ている。そして、そのApple同様、Google専用のショップを開くという。ということは、そのショップは、AndroidフォンやGlassとの連動もあるような、未来的なショップとして仕掛けてくることだろう。こちらは、かつて、ニューヨークのSohoで、レム・コールハースがプラダのショップ向けに試みようとしたものを踏襲しさらには超えるようなものになったら面白いと思う。少なくともARのアプリケーションは、ショップというリアルでフィジカルな空間でこそ意味を持つと思われるからだ。

もちろん、このショップには、スマートフォンやGlassだけでなく、今後、Googleが投入しようとする「物理的実在を持った商品群」を展示し販売する場所としても想定されているのだろう。Motorola Mobilityの買収も、単にスマートファンの製造だけでなく、製造工程に掌握し、そことのバランスを取りながら、リアル商品を企画していくことを考えてのことだったといえるのだろう。

このあたりのGoogleの経営旋回はCEOであるLarry Pageが示す《10x》の経営方針とも繋がっている。

Google’s Larry Page on Why Moon Shots Matter
【Wired: January 13, 2013】

《10x》とは、10倍の機能向上を実現するようなBig Thinkingを行え、という方針だ。Pageの考えでは、10%の機能向上は、ただ同じ仕事の繰り返しにすぎないとして、それだけでは会社は成長しないと考えている。また、そうした10%の機能向上は、もっぱら競合他社との争いの中で生じる現実的な対応策だが、Pageは、そのような他社との「競争」がイノベーションを生み出すとは思っていない。本当のイノベーションを生み出すのは、競争などという既存事業の平面上での開発ではなく、それとは離れたところで、10倍の変動をもたらすような方法を、目の前の「大きな問題」に即して考案するところから始まる、と捉える。

そのようなBig ThinkingをPageはMoonshotと呼んでいる。これは、ケネディ大統領が人類を月面に到達させ、安全にそこから帰ってこさせる、という計画を公表し、実際にそれがアポロ計画として実現した事実を尊重してのものだ。「大胆な」計画を公表したからこそ、その問題解決に惹かれて様々な人びとが知恵を出し合い、当初は全く無理だと思われていた月面到着が実現した。

実際、GoogleはそうしたMoonshotを考案する研究機関としてGoogle X と呼ばれる部門を設置した。Google Glassも無人運転自動車もともに、このGoogle X で開発されたものだ。さらに、Moonshotを目指す人びとのネットワークを作るために、Solve for Xという、TEDに似たフォーラムも立ち上げた。加えて、これは、Pageよりも共同創業者のSergey Brinが関わっていることだが、Brinは、FacebookのZuckerberg らとともに、生命科学の領域で革新的な研究を行なっている研究者に対する「賞」も設立している。

このようにGoogleは、未来を科学技術=ハイテクによって切り開こうとする意志に対して、社内外で大きく関与する方針を示し、実際に実行している。その結果、単なるウェブ企業ではなく、様々な未来の可能性を内包する、21世紀型の総合企業を目指しているようだ。その未来志向はRay Kurzweilを一種の技術顧問として招聘したところにもみて取れる。Kurzweilは、シンギュラリティを提唱してきた未来学者の一人だ。ここでいうシンギュラリティ=特異点とは、コンピュータの計算能力が人間のそれを凌駕し、そこから先は人間の知恵では将来を見通すことができなくなる時点のことをいう。サルから人間への進化の際に生じたであろう絶対的な変化を踏まえての考え方だ。

実際、Appleが音声でのコマンドに応じるソフトウェア(AI)をSiriと名付け実際の商品として世に出しているように、AIの技術開発も進んでいる。Big Dataと呼ばれるように、ウェブの普及によって分析対象となる具体的データも大量に調達できるようになった。計算資源の向上とデータ量の爆発的増大が、Kurzweilの考える方向性に一定の信憑性を与えている。何より、PageにしてもBrinにしても、スタンフォードの博士課程にいる頃からAIの可能性に期待を寄せていた。彼らの研究志向が、Googleというキャッシュマシンを手にすることで、再び頭をもたげてきたわけだ。

前CEOであるSchmidtが(創業者ではなく)雇われエグゼクティブの正しいステップアップとして政界に近いところで行動し、そのためにGoogle Ideaのような、ウェブのオープン性が社会にもたらす可能性を愚直に追求する方向に舵を切っているように見えるのに対して、創業者であるPageとBrinは、彼らが当初思い描いていたGoogleの姿を具体化しようとする方向に再度舵を戻したように思える。

再び面白い時代が始まりそうな予感がしてきた。
彼らのMoonshotがどのように芽吹き広がっていくのか。期待したい。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。