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クラウド・コンピューティングが変えるインテリジェンス・コミュニティ

Amazonが同社のクラウド・コンピューティングサービスであるAWS(Amazon Web Services)を使って、CIA(アメリカ中央情報局)とのITインフラの契約を結ぼうとしているという。

CIA Chooses: Amazon or IBM?
【Wall Street Journal: June 11, 2013】

アメリカのインテリジェンス・コミュニティ(諜報村)の要であるCIAが、クラウド・コンピューティングに向かう背景には、クラウド化による費用の削減と、クラウド上でのアプリケーション開発の機動力を評価してのことのようだ。つまり、コストとベネフィットの両面で移行する意味があると判断してのことのようだ。

上のWSJの記事によれば、Amazonへの契約規模は四年間で6億ドル(約600億円)ということだが、この動きに対して、従来CIAやその統括を行うDoD(Department of Defense: 国防総省)へ、スーパーコンピュータ等ITインフラを提供していたIBMが即座に反応し、連邦議会で政府予算の使途の監督を行うGAO(Government Accountability Office)に話を持ち込み、GAOからCIAに契約交渉の公開を請求させたという。つまりは、IBMがAmazonに契約を奪われないように防衛線を張ったことになる。

一つ補っておくと、CIAにしてもDoDにしても連邦政府業務の執行機関であり、いわゆる三権分立(立法、執行、司法)という三竦み状態を維持する仕組みの中では、執行部門である「大統領府」に属する(法を執行するという意味では「執法」部という方が誤解がないと思うのだが)。その予算を毎年法として成立させるのが連邦議会の役割であり、その延長線上で、その認可した予算が適切に利用されているかどうかを「監査」する役割を担うのがGAOだ。つまり、GAOとCIAの関係は、ホワイトハウスと連邦議会との関係に並行する。そして、いうまでもなく、現状で、ホワイトハウスは民主党、連邦議会下院の多数は共和党、という対立構造にある。

(ところで、2012年の大統領選において、オバマ陣営が利用したウェブサービスはAWS上で開発されていた。これは単なる憶測でしかないが、もしかしたら、AmazonがCIAに営業をかけることができた背後には、そのような関係もあるのかもしれない。)

もっとも、足下の状況は、NSA(アメリカ安全保障局)が携帯電話やインターネットをモニターしていた、というリークがアメリカのみならず世界中を駆け巡っている最中だ。むしろ、上の記事自体がニュースとして取り上げられたのも、一連のNSAのリーク事件の効果なのだろう。

第二次大戦後のアメリカで新たにmilitary-industry-complex(軍産複合体)が生まれていると指摘したのはアイゼンハワー大統領だったが、それから50年を経て、テクノロジーと政府との結びつきは、むしろ、intelligence-industry-complex(「諜(報)産複合体」)?とでもいうべき、新しい組み合わせへと移行しつつあるのかもしれない。もちろん、これは、NSA事件の前に報道されていた、ハッキングを中心にした一連のサイバーウォーないしサイバーテロの動きとも文脈を共有している。

上の記事でも取り上げているが、AWSは、人気のあるウェブサービスであるSpotifyやNetflixなどに、計算資源、ネットワーク資源を貸与している。そのような、日常的に利用されるサービスと同じインフラを使ってインテリジェンスサービスも運用されようとしている。Amazonの業容拡大はつとに有名なことであるが、そもそも書籍販売から始まった企業が、自社を支えるコンピュータインフラを貸与するに至って、業容の拡大は留まるところを知らなくなったことになる。

もちろん、こうしたウェブ企業の業容拡大の可能性はAmazonだけが享受するものではない。ラリー・ペイジがCEOになって以後のGoogleはハードウェア部門も傘下に収めることで、かつてのGEの業容拡大を再演しているという見方も見かけるようになった。GoogleもGE並の総合企業に転じようとしているという見方だ。

このように、2013年の現在は、ウェブやITの社会的位置づけが本格的に変わろうとする状況にあるのかもしれない。もちろん、今回の記事のように、既存の政府契約社であったIBMやHPなどの企業が簡単にその契約を明け渡すようには思えない。また、ICTは確かに中核技術かもしれないが、実際にはハードの生産技術も必要になる場面は多く、全てがクラウド化するわけでもないだろう。そのような留保はした上で、しかし、可能なところから政府インフラの一部を、クラウド化ないしウェブ化する動きは少しずつ進んでいくように思われる。

この手の話は想像に任せるといくらでも広がってしまう傾向がある。もちろん、それは、ウェブやインターネットのもつ拡張性のなせることなのだが、しかし、現実の世界では、物理的な制約を筆頭に、何らかの限界=制約条件が必ずある。その意味では、今回のNSAのリーク事件は、アメリカ連邦政府が政府機能のIT化を進めていく上で不可欠となるクリティカルな条件を明確にするための契機となるのかもしれない。つまり、一連の事件の後に何が決められ、何が残ったかこそが今後の方向を占うものになるということだ。

それにしてもAmazonとCIAという、今までには想像できなかった組み合わせには、それだけでいろいろと考えさせられてしまう。Amazonも随分遠くにまで来てしまったものだ。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。