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Microsoft-Nokiaのディールに見る、水平化を目指したモバイル・コンピューティングの再編劇

MicrosoftがNokiaの携帯端末(handset)部門を72億ドル(約7200億円)で買収することを発表した。

The big mobile-phone reset
【The Economist: September 7, 2013】

フィンランドに本社を置くNokiaは、2000年代前半までは、欧州市場での優位を通じて、世界の携帯電話市場でトップシェアを占める企業だった。ところが、2007年にAppleがiPhoneを市場に導入し、スマートフォン市場を開拓するに及び、ずるずるとシェアを落としていった。iPhoneだけでなく、Googleが同じく2007年にAndroidの無料ライセンスを公表したことも、携帯電話ユーザーのスマートフォンへの移行を促した。

この市場の変化に対して、Nokiaは当社は自前のOSを開発することで対応しようとしたが、上手くいかず、2010年に、Microsoftから新CEOとしてStephen Elopを迎え、彼の指揮の下で、自前OS路線を放棄し、Windowsを採用したスマートフォンの製造に乗り出した。そこから始まったMicrosoftとNokiaとの提携が、今回の買収劇に繋がったことになる。Elopは、今回の買収劇によって、再びMicrosoftのエグゼクティブとして復帰する。

とはいえ、先日、現在のMicrosoftのCEOであるSteve Ballmerが2000年から13年続けきたCEOの職を向こう一年の間に辞すると発表した直後の買収劇であり、余りのタイミングのよさに、もしかしたらElopはBallmerの指示でNokiaに送られた隠密だったのでは?などということを想像する人たちが出てきてもおかしくはない。それくらいタイミングが良すぎる話だからだ。つまり、スマートフォンの製造を通じて、NokiaとMicrosoftの関係を強固にし、そのお膳立ての上で晴れてMicrosoftの傘下に収まる、というシナリオだ。通常、買収において最も大変なのは、買収後のトランジッション期間にあるといわれることを考えると、先行してあった提携関係は、その移行期間を短縮したと解釈できるからだ。

もともとElopは、Microsoftの中でもWindows部門と並んで稼ぎ頭のOffice部門で活躍した人物だった。つまり、Ballmerの片腕でもあった。その人物が、今後の、モバイル・コンピューティング時代のMicrosoftにとって価値のある携帯端末部門を引き連れて復帰するわけだから、このことから、市場がElopをBallmerの後継CEOの最有力候補と見たとしても、全くおかしくはない。

実際、この「モバイル・コンピューティングの時代」は、Microsoftがわずか二十年余りで世界のトップ企業に仲間入りするのに貢献した「パーソナル・コンピューティングの時代」とは、競争優位の要となるポイントが大きく様変わりしている。そのポイントは、もちろんインターネットの普及によって、ネットワークが大前提になったことにある。

今回のMicrosoftによるNokia買収と同じタイミングで、アメリカでは、通信大手のVerizonが、欧州通信大手のVodafoneから、Verizon Wirelessの持ち株分を取得し、Verizon Wirelessを完全子会社にする動きがあった。こちらは、無線通信のネットワーク業務を速やかに進める方向にある。

ついでにいえば、携帯端末部門をMicrosoftに譲渡するNokiaは、今後は、いわゆるネットワーク整備に必要な各種機器を製造し販売する、一種の通信インフラ事業に焦点を合わせることになる。ネットワーク整備という点では、Ciscoや、あるいはAlcatel-Lucent等の企業と競合する分野だ。

このように見てくると、モバイル・コンピューティングの分野では、以下の様な「水平化」が進行中のように思える。

ユーザー・インターフェイスの提供: Google、Apple、Microsoft、・・・
インターネット網の物理的配備: Verizon、AT&T、・・・
ネットワーク機器の供給: 新生Nokia、Cisco、Alcatel-Lucent、・・・

これらに加えて、モバイルだけでなく有線のインターネットを含めて

クラウド/ビッグデータの提供: Amazon、Google、IBM、・・・

というレイヤーがサービス事業を稼働している。

今回のMicrosoftの動きや、GoogleがMotorola Mobilityを買収した動きから、一見すると「ハードとソフトが統合される」と捉えればよいようにも思われる。しかし、既にいかなるコンピュータであれ、ネットワークに繋がれるのが大前提である状況では、端末レベルでのハードとソフトの統合といっても、それは半ば必然なことで、主たる目的は、上で書いたように「ユーザー・インターフェイスの提供」にあるからだ。大事なことは、ひとつのユーザー・インターフェイスとしてスマートフォンのような端末を設計し供給することにある。そのユーザー・インターフェイスとしての「モバイル機器」をベースにして、各種アプリが開発される。ユーザー・インターフェイスがはドとソフトの調和の下で一つのガジェット(機器)としてきちんと設計されていてはじめて、各種アプリデベロッパーを抱える「プラットフォーム」や「エコシステム」と呼ばれる「場」を生み出すことができる。

実際、スマートフォン市場でAppleと並ぶ二強の一角であるGoogleは、先行してMotorola Mobilityを買収し、ハードウェアの設計・開発力(パテントを含む)から製造ラインまで一度傘下に収め、ハードとソフトとのチューニングを自社のペースで行える体制を打ちたてていた。Microsoftの動きはこれに連なるものだ。

ところで、このアプリのエコシステムを重視する様子は、かつてMicrosoftがX-Boxによってゲームコンソール市場に参入した時のことを思い出させる。ゲーム同様、多くのアプリをデベロッパーによって開発してもらい、それらのアプリを含めてスマートフォンの魅力が増していくとまず考える。そのため、デベロッパーの目から見れば、ハードとソフトを合わせたユーザー・インターフェイスのあり方が問われることになる。

この点で、PC時代に基幹ソフトウェア(Windows+Office)に特化することで、具体的なPC端末によらず市場を独占し、有利な条件でビジネスを進めてきたMicrosoftとは異なる姿が今後見られることになるのだろう。その際、X-Boxによって得られた経験も活かされるのかもしれない。

以上見たように、モバイルの分野は、スマートフォンの登場により、高機能携帯電話からモバイル・コンピューティングの時代へと移行し、その移行を受けて各種プレイヤーも資産の組み換えを行い、組織の戦略的合理化を図っているのが現状だ。

そして、おそらく次のステージになるのが、モバイル/パーソナルではなく、ホーム/ソーシャルという方向なのだろう。つまり、テレビ受像機やビデオプレイヤーを中心とした、その昔、黒物家電と言われた家庭用AV機器の世界が、パーソナル・コンピューティング、モバイル・コンピューティングに続く「第三のコンピューティング」が登場する場所となる。

実は、このホームをコンピューティングするという方向も、モバイル・コンピューティング同様、インターネットが商用化された90年中頃に、コンピュータの未来像の一つとして挙げられていたものだった。その意味で、20年越しの構想が、これから実現に向かうことになるのだろう。モバイル・コンピューティングに向けた「水平化」の再定義・再浮上は、そのための一里塚と位置づけることができる。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。