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オバマ大統領のキャンペーンマネージャーを引き抜いたUber

カーシェアリングサービスのUberがDavid Plouffeを引き抜いた。Plouffeは、2008年の大統領選でオバマ陣営のキャンペーンの指揮をとり、選挙戦勝利の立役者の一人だ。

Uber Picks Political Insider to Wage Regulatory Fight
【New York Times: August 19, 2014】

Uber Hires Obama Adviser Amid Regulatory Fight
【Wall Street Journal: August 19, 2014】

UberがPlouffeを求めたのは、自社のサービスが広がっていく過程で、各種公的機関との調整が必要になってきたことによる。タクシーやハイヤーなど都市における人の移送事業と本質的に類似したサービスであるだけに、Uberの認知度が上がり利用が広がれば広がるほど、法的な規制ならびにそれらを実施する公的機関との折衝が不可欠になってきた。

Uberは、空き部屋の利用や部屋の一時的レンタルを可能にしたAirBNBと並んで、いわゆるシェアリングサービスの代表的なものだ。Share Economyと呼ばれる、当事者間の貸借ないし共有をコアに据えた経済活動の具体的な事例の一つだ。

Share Economyは、既に様々なところで議論されてきているように、「所有」が絶対ではなく、必要なときの「利用」ができればよい、という考え方に基づいている。その結果、従来であれば、専業の事業者、つまりプロが行ってきた活動に、アマチュアが参加する可能性を開く。そして、その専業者が認可制のライセンスを必要とするものであったり、公的な機関から一定の事業規制を受けたものであったりした場合は、新規参入のアマチュアに対して事業内容として競合するだけでなく、規制当局から違法行為者とみなされてしまうこともある。

Share Economyの具体化の一つであるUberも、タクシー事業者との競合だけでなく、規制当局からの事業停止を示唆されることもある(確定には裁判などの法的過程が必要)。実際、Uberはドイツで当局から事業を禁止されるという事態も起こっている。

そうした法的に不安定な状況を乗り切るためにPlouffeはUberに抜擢された。

とはいえ、なぜ選挙キャンペーンのプロが選ばれたのか、という疑問は免れない。この点については、いくつか理由が考えられる。

まず、選挙キャンペーン同様、ユーザーの支持を得ることで、規制当局や司法担当者に一定のアピールを行うことが挙げられる。この点は、必然的にボトムアップの広がりを糧にして成長するShare Economyの事業全般に当てはまることだ。

直接的には議会による立法措置を促すことが大事なのだろうが、アメリカの場合、民事に関するものは可能な限り、現場に近いところで既存のルールを使った法的な調停、すなわち裁判で扱われることが多い。そして、裁判官(Judge)の多くは、市民の自由を損なわないことを大前提にしながら、各種の法を「現状に合わせて」適用するか否かを判断(judge)する。それゆえ、その「現状」がいかなるものであるか、を公に明らかにすることは大事なステップだ。望ましいのは、Share Economyが社会にどのようにして受け入れられているのか、具体的に利用者たちに発言(speak-up)してもらうことだ。そして、この点にこそ、選挙戦に限らず公的活動の支持を求めるキャンペーンを仕切ってきたPlouffeの存在意義がある。

こう見てくると、Share Economyの意義を訴えるコミュニケーション活動とは、「経済的行為の自由」を求めるものであり、この点で、政治的自由(=平等)の獲得のための政治的なキャンペーンと行うこととほとんど変わらない。裏返すと、Share Economyを一種の「自由」を巡る動きとして位置づけることができる。

こうした活動はPR(Public Relations)やPA(Public Affairs)いしGA(Governmental Affairs)と言われる分野で、アメリカでは、専業のコンサルタントが活躍してきた領域だ。この領域は、ソーシャルメディアの登場によって一般の人びとへのリーチが容易になり、かつ人々による拡散力があてに出来るようになってから、随分広告的な活動に近くなりつつある。

前回の「アイスバケット・チャレンジ」のエントリーで「消費するように連帯する」と書いたが、まさにその「緩い連帯力」を使いながら、あるメッセージや価値観を人びとの間に浸透させ、望ましいアクションを行うように水路づけていく。共感を募り一票=信用に転じさせる手法は、選挙キャンペーンにおけるコミュニケーションで長らく試みられてきた。アメリカの場合、非営利事業が盛んなこともあり、この手のソーシャルキャンペーンは、マスメディアを使ったトップダウンの認知誘導とは異なる次元で以前から実施されてきた。それがソーシャルメディアを通じて一気に一般化した。その意味では、こうした手法自体がShare Economyの事例の一つであるともいえる

一つ付け足しておくと、UberやAirBNBのような事業が勢いを持つ背景には、そもそもShare Economyを容認する社会的慣習がアメリカに見られたことも捨て置けない。彼らに特有の文化的土壌が背後にあるということだ。

もともと夏季休暇中に部屋や家をレンタルしたりスワップしたりする習慣がアメリカ(というか欧米社会)にはあった。だからこそソーシャルな広がりを得ることができたといってよい。学生の間でのルームシェアもその一つだろう。お金のない学生だからこそのレンタルの習慣が広まった。

だから、そうした目に見えない「シェア」サービスが、ソーシャルウェブが登場し、スマフォを通じて自在に利用できるようになり、相応の組織的規模をもつものとして、社会の表舞台にあがってしまった。そういっていいのだろう。その点で、既存の事業規制の書き換え=更新は避けて通れないものである。と同時に、新たなパブリックサービスである点から、逆に、何らかのルールを、事業者の間の自発的なものであれ、政府による法ないし法に準じるものであれ、必要になることに、事業者自身も気づいている。

そのような法的決まり事を扱うには、デモクラシーの国で事業を展開する以上、有権者でもあるユーザーの支持を集める必要がある。こうしたPublic Affairsに当たる活動のために、Plouffeのような人材が求められる。

立法過程を直接狙うロビイストを使って議会に働きかけるだけでなく、ユーザーの支持による「人びとの声」を集めることで、司法の現場での法解釈においても、立法の現場における法改正ないし新規立法についても、影響を与えていく。それも、ソーシャルメディアの時代にふさわしいボトムアップの方法を使って、ということなのだろう。

翻って、Share Economyは、いつでもどこでも誰とでもいかなる方法を使ってもコミュニケートできるウェブの時代だからこそ可能になる社会変容の一つだ。とりわけ、クラウド化とスマフォ化による効果は大きい。クラウドによって情報財についてはシェアやレンタルの発想が身近なものになっている(そして、経済効率的であることも徐々に啓蒙されつつある)。スマフォによって、そうしたサービスを手元でいつでも操作できるようになっている。したがって、Shareの動きは今後も引き続き生じてくることだろう。そのようなサービスを提供する事業者の側に目を転じれば、クラウド化の効果は、起業のためのイニシャルコストを劇的に下げたという事実がある。その分、サービスの質に対して気を配ることができる。そして、誰もが思いつくようなものは先んじて始めたほうが有利なことは言うまでもない。その点でもShareの動きは止まらない。

Share Economyは、その性格上、経済法、産業法、事業法などに直接・間接に関わるものが多い。というのも、Share Economyの実質が、ボトムアップの「民営化」であり、民間によるスケーラブルな「パブリック」サービスの提供でもあるからだ。したがって、Plouffeが担うであろう、ボトムアップのキャンペーンに準じる動きは今後も随所で見られるようになるのだろう。そして、そのような動きがいくつも続くのならば、Shareを巡るキャンペーンは、Share Economyを可能にする条件として、コミュニケーション環境のオープン性にまで及ぶに違いない。その点で、このShareを巡る動きは、Openを普遍的な政治的価値へと練り上げる一里塚となるのかもしれない。単に、政治の世界で活躍してきたPlouffeが携わるから「政治的」になるわけではなく、キャンペーンの中にそもそも公的で政治的なものを孕んでいたからなのだろう。この点でも、各種Shareと関わるサービスの動向は興味深い。消費=利用が同時に連帯であり、経済行為の自由を通じてウェブ時代の自由を考える契機にもなるからだ。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。