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P2Pレンディング最大手Lending ClubのIPO

P2Pレンディングの最大手であるLending Clubが、2014年12月10日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。

Lending Club Shares Surge in Market Debu
【Wall Street Journal: December 11, 2014

Lending Club Pops More Than 60% In Public Trading Debut
【FORBES: December 11, 2014】

Lending Clubは、P2Pレンディング、あるいは、marketplace lending platformと言われるカテゴリーの最大手だ。これは、インターネット上で、資金の貸し手と借り手をマッチングさせるサービスであり、Lending Clubはマッチングの手数料が収益源となる。つまり、通常の銀行のように、一度預金として顧客から預かった資金を借り手に貸し出すというものではなく、あくまでも仲介者として、借り手と貸し手を結びつける業務だ。

そのため、二者の間での(インターネット上での)やりとりを表すP2Pという表現が使われる。また、あくまでも、貸し手と借り手が出会い交換する場を提供する、という意味でmarketplace=市場(いちば)という表現が使われる。念のため、付け加えれば、この場合のP2Pは、コンピュータ間のデータのやりとりを自動で行うというようなものではなく、原則的には、人と人の間のやりとりである。

Lending Clubは、フランス生まれの企業法務を専門とするMBAホルダーのRenaud Laplanche(ルノー・ラプランシュ)がサンフランシスコで2006年に創業し、創業8年で上場を果たした。上場後の株価は一株が15ドルで取引され、8億7000万ドルを市場から調達した。上場の引受会社は、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスであった。

当たり前ながら、ハイテク関係者からは注目を集めている。機能的に見れば、銀行業務の中抜けであり、新たな「仲介」業者の誕生だからだ。中抜きや新仲介業の設立というのは、インターネットで期待された産業変容の中でも基本中の基本だからだ。2013年にはGoogleからの出資も受けていた。

Lending Clubは、ボードメンバーに、クリントン政権時代に財務省長官を務め、その後ハーバード大学のプレジデント(学長)を務めたローレンス・サマーズや、モルガン・スタンレーで会長とCEOを務めたJohn Mackらが名を連ねており、金融業界との繋がりもしっかり作ってきたことがわかる。

Lending Clubについては、2008年のリーマン・ショック後の銀行の貸し渋りによって、学生ローンが得られず困っていた学生に対して、貸し手を仲介するサービスとして注目を集めたことがあった。ネットを通じた、一種の「あしながおじさん」のような話だ。もちろん、P2Pレンディング事業者全般に当てはまったものだが、助け合いの仲介者というイメージで、一種の美談のように伝えられていたように思う。

その後、取扱量を増やしていき、今では貸し手に大手のファンドが参加していたり、マッチングによって生じた債権を証券化する動きも生じており、P2Pという言葉から受けるイメージを超えた存在になっている。もともとは、個人向けの消費者ローンからスタートしているが、ローンの範囲も今後は広げていく計画だという。

P2Pレンディングの競合企業も上場を検討しており、そのためにも最大手のLending ClubのIPOの動向は密かに注目を集めていた。まずは、成功を収めることができたことから、後続の企業がどう振る舞うか次第で、ローンを巡る産業構造も変わっていく可能性がある。

もちろん、事業上のリスクはある。もともと、貸し渋りや高い金利というローン市場の動向に対して、P2Pというフレームで仲介手数料を抑えることで相対的に低金利でのローンを実現したところからLending Clubは始まっている。したがって、金利の動向や、具体的な債権の質といった課題への対処は必要になるのだろう。また、ローンの範囲をどこまで拡げるのかという問題もある。新たな規制が生じる可能性もある。既存の銀行の巻き返しもあるかもしれない。

そういったもろもろの課題は抱えているものの、今回の動きが興味深いと思えるのは、東海岸のウォール街でリーマン・ショックが生じた時に、西海岸のサンフランシスコでインターネットベースの新しい融資の形態が誕生していたことであり、しかも、その創業者がフランス人であったこと。その後の資金調達にはGoogleやベンチャーキャピタルだけでなく、外国の投資家も参加しており、バラエティに富んでいたこと。さらには、既存金融業界への一撃を与える存在に対して、当の金融業界の一角である投資銀行自身が参画し、むしろ、その可能性に賭けてしまったこと。もちろん、引受会社は、IPOが終われば業務は完了するので、極端な話、上場を行った企業がその後どうなろうが、関係はない。とはいえ、金融業界自体を変えるかもしれない存在を育て上げるかもしれない業務に参加しているところは、ある意味で、目の前のビジネスの合理的判断に集中している点で、いかにもアメリカらしいという気もしてくる。

いずれにしても、お金の回り方の変化は、長い目で見れば、社会の経済的な意味での編成に影響を与えるものだ。ローンのあり方を変えるかもしれないP2Pレンディングの動きは、Lending Clubに限らず注目に値する動きだと思う。ちょうど、Kickstarterのようなcrowdfundingのプレイヤーが、製作のあり方を変えたことに類するものだと思う。

ということで、後続の競合企業がどういう動きをするのか、が次の関心である。また、サマーズのような金融業界の重鎮の存在によって、今後のアメリカの金融業界にどのような波及をもたらすのかもにも注意してもいいのかもしれない。

それにしても、フランス人がサンフランシスコで起業してNYに上場、というのは、いかにもアメリらしく興味深いエピソードだ。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。