Alphabetはラリー・ペイジの夢の実現装置となるのか

GoogleのCEOであるラリー・ペイジが、新たに持株会社Alphabetを設立し、Googleは事業会社としてAlphabetの子会社にすると発表した。

Google to Reorganize in Move to Keep Its Lead as an Innovator
【New York Times: August 10, 2015】

Google Creates Parent Company Called Alphabet in Restructuring
【Wall Street Journal: August 10, 2015】

従来のGoogleの株式はAlphabetの株式に移転され、NASDAQではAlphabet株が取引されることになる(なんとティッカーはGOOG、GOOGLのままだという)。AlphabetのCEOにはペイジが、Presidentにはセルゲイ・ブリンが就任する。Alphabetの子会社となったGoogleのCEOには(インド系の)スンダー・ピチャイが就任する。

Googleの他に持株会社Alphabetの傘下に入る事業会社は、2011年にPageがCEOに就任後、買収、出資、JV、として関わった、以下の企業が組み込まれるようだ。

Calico *老化阻止会社
Sidewalk *スマートシティ推進会社
Nest *家庭用煙探知機会社
Fiber *都市へのブロードバンド配備会社

さらに、事業会社だけでなく、「ムーンショット」となる革命的イノベーションの呼び水となる研究事業、投資事業も対象となる。

投資部門: Google Ventures、Google Capital
研究部門: Google X

一方、事業会社となったGoogleは、検索、広告、地図、ビデオ配信(YouTube)、モバイルOS(Android)を行う。

ペイジは、以前から研究開発を踏まえた長期投資を実践する上で、ウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイの投資方法に関心を示しており、今回の企業再編は、その考え方を具体化させた結果となる。

実績のある事業会社を子会社にして、そこからの利益(配当)を梃子にし他の有望分野に、様々な形で投資(出資、子会社、JV)することは、よく見られることだが、しばしば中核子会社以外の扱いが難しくなる。

今回の再編は、基本的には、ペイジのアグレッシブなハイテク拡大戦略に対して、いわゆる「Google」の事業範囲はどこまでなのか、Googleの内外で疑問視する声に対して楔を打つものだと思われる。そのため、Alphabetの下でGoogleと並置されることになる他の子会社群がいかにして収益を上げるのか、あるいは、どれくらいの期間を孵化期間と見なすのか、などの問への回答は、今後用意されるのだろう。

『〈未来〉のつくり方』でGoogleを扱った第2章の内容でいけば、いわゆるトンデモナイ=革命的なイノベーションである「ムーンショット」にあたる事業群を「Googleの本業」部門と財務的にきちんと区別することが求められた結果が今回の企業構造の再編なのだろう。

したがって、Google以外の「ハイテク期待部門」について、ペイジ&ブリンが具体的にどう扱っていくのかは、これから対外的に発表されるのだろう。その意味では、今まで以上にペイジ&ブリンは、ムーンショットの「布教活動」を対外的に行っていく必要に迫られる。

たとえば、バークシャー・ハサウェイを参考にしたというが、では、ペイジ&ブリンは、バフェットのような「投資家向けの手紙」を書き、オマハの賢者と呼ばれるような未来に対する「叡智」を具体的に示すのだろうか。

こう書くのは、別にペイジ&ブリンには難しいのでは?という疑念を示すためではなく、むしろ、その反対で、一体彼らはどんな論法で、あるいは計画で、彼らの「長期ビジョン」を投資家の世界に認めさせていくのだろう、という期待を記したいためだ。

バークシャー・ハサウェイはあくまでも投資会社だ。一方、ペイジ&ブリンが行おうとしているのは、投資専業の会社として投資を行うことで金融的利益を上げるだけではなく、事業そのものを立ち上げてそこから事業収入をあげられる会社とするところにある。その金融会社と事業会社の双方を立ち上げるところに彼らの挑戦があるように思えるからだ。いわゆる産業資本に近いのだが、その投資対象が即座に利益が上がる(ほぼ)既存事業というわけではないところが、単純にコングロマリットを目指すこととは異なることになる。

『〈未来〉のつくり方』の中で、「スタンフォード化するGoogle」ということを書いた。研究開発の成果を積極的に事業に転じさせる(スタンフォード)大学のような存在の部分をGoogleは持ち始めている、というのがその趣旨だったのだが、Alphabetはその具体化のように思えるからだ。その点で今後、どのような「方針」をペイジ&ブリンが示してくるのか、気になる。

なぜなら、この手の業績のある事業会社の親会社・子会社への分離の場合、しばらく経ったところで、やはり基幹事業会社(この場合はGoogle)以外の持株会社への貢献が低いので、基幹事業会社をスピンオフさせろ、という声が上がりやすくなるからだ(AlphabetのティッカーがGOOG/GOOGLのまま、というのは、そういう点で不穏な気にさせる)。

ただの金融資本でも産業資本でもない、その中間の「研究事業化資本」とでも呼ぶべき新たな企業の根幹のあり方を、果たしてペイジ&ブリンは大々的に示してくれるのか。今後続くであろう、ペイジ&ブリンによる声明や、彼らに対するアメリカのビジネス・ジャーナリズムによるインタビュー(による突っ込み)を楽しみに待ちたい。彼らなら、何か新しい策を示してくれるのではないか、と感じているからでもある。

ペイジは、常々、発明と事業化の両方が大事と主張してきた。発明の才はありながら事業化に躓いた奇才ニコラ・テスラを反面教師にした見方だが、今回の試みは「研究事業化」という点で、発明と事業化の車の両輪を恒常的に回し続けるための器作りといえる。そのような彼の長年の夢を叶えることにAlphabetの設立は繋がるのだろうか。

産業革命時代に登場したトラスト/コングロマリット側の資本を「産業資本」と呼ぶのならば、情報革命時代に登場する、研究事業化=イノベーション志向の資本を「情報資本」と呼ぶことができるのだろうか。実際、ペイジ&ブリンがこの数年投資してきた事業群は、その背後には指数関数的な性能向上が期待される「情報化の恩恵を受けた事業」であったからだ(『〈未来〉のつくり方』の1章、2章参照)。その点で、投資する時点では潜在的可能性でしかない事業を加えて新たにエコシステムを築こうとする発想の成否が問われることになる。つまり、指数関数的なエクスポネンシャルな成長が見込まれるハイテク領域への投資の正攻法として、投資家に認められるかどうかが問われるわけだ。

Alphabetの今後が、ペイジ&ブリンの今後が、とても楽しみだ。

もしも本当に、バークシャー・ハサウェイ(金融資本)とGE(産業資本)の間にあるような存在にAlphabetがなるのであれば、それだけで一つの発明だろう。

それにしても、Alphabet=アルファとベータとは。

期待以上の収益を上げる事業=アルファと、期待に適った収益を確保する事業=ベータ、すなわち、Google X的な将来からのリターン(=アルファ)と、既にキャッシュカウたるGoogleからのより確実なリターン(=ベータ)との組み合わせを社名とするとは。アルファにベットする=賭ける、とペイジは解釈しているようだけれど。

いずれにしても、Alphabetが投資会社であることの表明でもあるが、しかし、そんな人を食ったような社名をもつ会社が、文字通り、アルファとベータの対象をともに拡大させることができるのか。才気煥発な知恵にもとづき新たなアルファを生み出しては、ベータに組み込まれるほど社会に浸透する安定事業にできるのか。アルファとベータのサイクルをいかにしてまわすのか。そんな冗談のような社名が本当の機知に変わる様を是非見てみたい。

要するに、ラリー・ペイジは、ITだけでなくハイテク全般において未来の可能性を追求したくなったわけだ。

author: junichi ikeda