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ウェブ1.0時代の終焉

ヴェライゾンがUSのヤフーのインターネット事業部門を48億ドルで買収すると発表した。

Yahoo’s Sale to Verizon Ends an Era for a Web Pioneer
【New York Times: July 24, 2016】

インターネット事業部門とは、メールやコンテントなど、ウェブサイトで利用できるサービスのことを指す。では、それ以外は何かというと、要するに、アリババやヤフージャパンの株式という、金融資産になる。それらは、買収後も、現状のヤフーに残り、そのまま投資会社へと変わる。もちろん、社名もヤフーから別のものに変える予定だという。

一方、買収する側のヴェライゾンはどうするかというと、すでに買収済みのAOLのオペレーションとヤフーのオペレーションを統合するという。

このヴェライゾンの計画を聞いて、ああ、そうなったか、というのが正直な感想だった。AOLはその昔、インターネット時代のパイオニアといえる、ウェブブラウザ開発会社のネットスケープを買収していた。だから、90年代半ばのインターネット最初期のビッグ・プレイヤーであるヤフー、AOL、ネットスケープの全ての資産が、ヴェライゾンの手に渡ったことになる。

これは、その時代の記憶のある人間からすると、かなり悪い冗談のように聞こえてくる。多分、ITバブルが弾ける前に、いやー、将来、どれもヴェライゾンに買われちゃうんですよ、と言ったら、お前、何言ってるんだ?と詰問されるのは必至だったろう。

それくらい、当時は、ヤフー、AOL、ネットスケープに勢いがあったし、逆にヴェライゾンは、もちろん、かつての巨人AT&Tの分割後の通信事業者として活動していたけれど、しかしまだ、移動電話と固定電話が別会社であるなど、合併による集約化が進む前のことだった。だから、ヴェライゾンが勝ち組になるかどうかは、まだはっきりしなかった。

多分、ヤフーに取っての戦略ミスで一番大きかったことは、サーチエンジンとして創立間もないグーグルを採用したことだった。これは、いわばPC誕生期に、IBMが、OSをマイクロソフトに、CPUをインテルに、それぞれ委ねて、自らその後の成長のコアを手放してしまったことに近い。

もちろん、ヤフーは、ITバブルを生き残ったわけだが、よく知られるように、2000年前後に勝利の方程式と目されていたコンテントアグリゲーターへと経営の舵を切った。要するに、インターネット上のマスメディアになろうとしたわけだ。それは、90年代初頭の「マルチメディア」ブームからすれば無茶な話ではなく、そうしてユーザーの「眼球(アイボール)」を集めることで、広告収入を最大化させようとすることを意図していた。それは、もちろんマスメディア時代からインターネットを見たら当然のことだった。しかし、後から振り返ればビジネスモデルの革新を放棄したものでしかなく、あくまでもグーグルとフェイスブックが登場するまでのつなぎの存在でしかなかった。

結局、この頃雇いいれた、マスメディア出身のエグゼクティブたちが、自分たちの居場所の保持というのも含めてコンテントアグリゲーターという位置づけを捨てなかったことが、その後の、マリッサ・メイヤーを起用しても変わらなかった会社としての「慣性(イナーシャ)」になってしまった。

どれだけITとして革新的であっても、ビジネスモデルの採択やそれに伴う人材の入れ替えで会社の性格がガラッと変わり会社の成長自体が迷走してしまうのは、最近であればツイッターあたりがそうだろう。マイクロブログだったはずの「ソーシャル」なコミュニケーション空間として一時は注目を集めたツイッターも、IPOを前にして経営陣を一新し、広告モデルを採用すべくマスメディア業界からエグゼクティブを雇い入れて、見事にラジオのテキスト版のような、一斉同報広告メディアに変わった。そして、初期のユーザーからはそっぽを向かれ、新規ユーザーからは匿名をいいことに、自薦ツイートが飛び交う素人の宣伝空間に変わってしまった。今では、ドナルド・トランプも、扇情的な動員に用いる、体のいいプロパガンダ装置になってしまった。

ヤフーも、そんなツイッター的な展開が感じられた。いや、順番からすれば、ヤフーの方が先輩にあたるわけだが、ともに、アナログ時代のマスメディアモデルに浸食されて、何を自分たちはしているのか、よくわからなくなってしまったようだ。

もちろん、グーグルやフェイスブックにも、そうしたマスメディア志向が無いわけではないが、彼らの場合は、とにかく良くも悪くもテクノロジーオリエンテッドな革新を考えている。では、どうして全てのパイオニアだったヤフーは、そうなれなかったのか。いや、ファイスブックの背後には、いつの間にか消えたMySpaceのような例もあるのだが。しかし、そういえばMySpaceもマードックが買収することで途端にダメになった。

となると、ウェブ企業にとっての教訓は、安易にマスメディア経験者を採用しないというところにあるのかもしれない。ゼロベースで考えることができる方が、生存率が高まるのかもしれない。

ヤフーのヴェライゾンによる買収は、そんなことを考えさせられる出来事だった。いずれにしても、ウェブ1.0の時代は、これで完全に終了したわけだ。しかし、それは当然といえば当然だ。20年間も続くはずがないのだ。イノベーションが当然の、ウェブの世界で。

author: junichi ikeda

CONCEPT

FERMATは、コミュニケーションという社会の基底を与える領域の変化の徴候に照準しながら、未来のビジョンを描くことで、新たな何か=“X”、の誕生を促します。