AT&Tによってストリーミングに乗り換えるTime Warner

AT&TがTime Warnerを854億ドルで買収すると公表した。ComcastによるNBC Universalの買収に続いて、また一つ巨大なメディア・コングロマリットが生まれることになる。買収方法は、半分は株式(一株あたり107.50ドル)、半分はキャッシュということだ。

AT&T Agrees to Buy Time Warner for $85.4 Billion
【New York Times: Octber 22, 2016】

AT&T Reaches Deal to Buy Time Warner for $85.4 Billion
【Wall Street Journal: Octber 22, 2016】

コンテント(Time Warner)と導管(AT&T)の合併となるので、典型的な垂直統合となる。

もっともこれだけ巨大な合併については政府機関の承認が必要になるので、買収計画が公表されたからといって、即座に新AT&Tが生まれるわけではない。情報通信の規制を担務するFCC、反トラスト法の執行を任されている司法省反トラスト局ならびにFTCらが合併審査に動き出すことになる。

となると、むしろ当面の関心は、残りのハリウッドメジャーがどう動くかということにある。すでにComcastがNBCUを買収した先行事例があるためだ。上の記事にもある通り、ViacomとCBSが再び合併するのでは?という憶測がすでに飛び交い始めている。

念のため、確認しておくと、AT&Tはアメリカの通信業界のトップの一つ。かつての独占事業体から継続した社名を名乗っているが、かつての巨人、「マーベル(MaBell)」と呼ばれていたAT&Tが、地域通信と長距離通信に分割された後に、携帯電話という成長分野に進出することで再び合併を繰り返し巨大化してきた。Verizonとあわせてマーベルの生き残りだ。

ちなみにAT&Tというと、なんとなくニューヨークに本社があるように思えるが、現在のAT&Tの本社はテキサス州ダラスにある。だから、実体は30年前とは異なっている。アメリカ人だけでなく世界中の人びとが知っているという理由で、何度合併を繰り返しても“AT&T”というのれんだけが見事に生き残ってきたわけだ。

一方、Time Warnerは、過去10年の間に、かつては単体でコンテントからコンデュイット(導管)まで所有するメディア・コングロマリットであった組織構造をどんどん分割してきていた。そのため、今回買収される“Time Warner”は、HBOやCNNなどケーブルテレビ向けのチャンネル(=ケーブルネットワーク)と、ハリウッドメジャーの一つであるワーナーブラザーズなどからなる「コンテント」専業の会社といってよい。

だから、Time Warnerの側から見れば、今回の合併の意義は、過去のライブラリーも含めて映像コンテントの配信方法としてケーブルテレビではなくインターネットストリーミングを選択したということが全てであるように思える。

要するに、今までもハリウッドメジャーが何度も繰り返してきた、映像コンテントの上映インフラの乗り換え、というのが事の本質だ。映画館、地上波テレビ、レンタルビデオ、ケーブルテレビ、セルビデオ、・・・、と続いてきたコンテントの出し先(アウトレット)としてストリーミングがとうとう本命視された、ということだ。

こういってよければ、ハリウッドとはヴァンパイアやゾンビみたいなもので、映像制作という「魂」の部分はそのままで、その魂が憑依する身体を時代ごとに最も頑強なものへと乗り換えることで生き残ってきたといえる。

だから、AT&TがTime Warnerを買収とあるが、実体はTime Warnerが新たな宿主を見つけたというのが正しいだろう。そうやってハリウッドメジャーは、しぶとく不滅であり続ける。もっとも、新たな宿主も暖簾だけが生き残っただけで、かつてのAT&Tとは異なる存在なわけだから、こちらも「名前」という記号だけがふわふわと憑依先を選んで今に至っているようにも思われる。メディア・コングロマリットというよりも、メディア・キメラとでも呼ぶほうが合っているのではないかと思えてしまう。

それにしても、ここのところ、AIやVRのように90年代に提唱された新サービスが再びリアリティを取り戻すリバイバルが流行っているが、このAT&TとTime Warnerの合併もその一つと言えそうだ。アル・ゴアによって情報スーパーハイウェイが提唱された時、すでにケーブルとハリウッドの合併が言われていた。マーベルによって全米に散った地域通信会社もその一つだった。その時代を知るものからすればなんとも懐かしい合併劇、それが今回の買収だった。

さて、次に来るのはどこだろうか。

むしろ気になるのは、インターネット以後登場したプレイヤーたちの反応で、はたして、Amazon、YouTube、Apple、Netflixといったあたりはどんな反応を見せるのか。そういえばAppleがTime Warnerを買収するという噂もあった。新メディアコングロマリットの財源は、ペイか広告かということも含めて、気になるところだ。

author: junichi ikeda